山脇学園中学・高等学校 ×辞書アプリDONGRI

 山脇学園中学校・高等学校は、2023年に創立120年を迎えた私立女子中高一貫校だ。2020年から全校でiPadを導入し、ICT教育を本格始動した。6年間の探究学習を通じて、生徒一人一人が自分の「志」を見出し、その実現に向かうことができる教育を大切にしている。
 2023年から中学1年生と高校1年・2年生でDONGRIを導入した。今回、グローバル教育部主任・英語科副主任の木村圭佑先生から、DONGRIの活用についてお話を伺った。辞書引きという日々の細かな学習過程の中にも、探究的な視点を深められる配慮が溢れていた。

日本語訳ではなく、イメージをつかむ語彙学習

 高校1年生では、『コンパスローズ英和辞典』と『ウィズダム和英辞典』を活用している。それまでは単語帳を中心に語彙学習に取り組ませていたが、それでは「一つの英単語を一つの日本語に置き換えられるという誤った刷り込みを強化してしまうのではないか」という課題を感じていた。英語と日本語の置き換え作業に終始するのではなく、単語の細かなニュアンスや言語間の違いに気づき、そうした見方を深めながら語彙学習を進めてほしいという思いで、DONGRIの導入に至った。

 聞けば木村教諭は、『コンパスローズ英和辞典』の編集に携わる大西泰斗先生の大ファンだという。木村教諭は学生時代、英語は覚えなければいけないことがたくさんある教科だと感じていたが、その学習観が変わるきっかけが大西先生だった。単語や英文法をむやみに暗記するのではなく、細かな規則の奥にある法則やイメージをつかむことが大切だと、大西先生から学んだのだという。

NHKの番組「ハートで感じる英会話」の一場面を今でも覚えています。大西先生は、“-ing”が「生き生きした気持ちを表す躍動感のあるイメージをもつ」と解説されていました。「だから進行形は『動いている感覚』を表すのだな」と強く納得したことを覚えています。語のイメージは、それを覚えておけば多くの場面に応用できるものです。覚えることも減るし、納得感のある学習法なので、私もそのように生徒に教えたいと考えています。

 同校では、論理表現の教材として、同じく大西先生が監修した『総合英語 FACTBOOK これからの英文法(NEW EDITION)』(桐原書店)を活用している。『コンパスローズ英和辞典』の特徴の1つは、重要語に「語のイメージ」が付されていることだ。同様のイメージが記されていることで、生徒は教材間の解説の違いに違和感を覚えることなく、スムーズに学習に取り組むことができているそうだ。

図左:『コンパスローズ英和辞典』の語釈をDONGRIで表示図右:大西泰斗/ポール・マクベイ著『総合英語 FACTBOOK これからの英文法(NEW EDITION)』桐原書店2022年102頁

図左:『コンパスローズ英和辞典』の語釈をDONGRIで表示
図右:大西泰斗/ポール・マクベイ著『総合英語 FACTBOOK これからの英文法(NEW EDITION)』桐原書店2022年102頁

探究的な視点で語彙学習に取り組む

 木村教諭は、辞書の活用法を学ぶ自作のワークシートを定期的に週末課題に出している。DONGRIを導入してからは、生徒が共通した辞書を使用することになり、辞書指導が行いやすくなったという。

図:木村教諭作成のワークシートと生徒の回答

図:木村教諭作成のワークシートと生徒の回答

 自作のワークシートには、指定された重要語句の日本語訳を書き入れるような内容はない。そうではなく、共通のフォニックスや接尾辞をもつ言葉を調べたり、語のイメージと対応付けて用例・和訳を書いたり、成句の調べ方を学んだりする内容が並んでいる。生徒が比較を通じて単語のつくりや意味の広がりの共通性に気づき、辞書の見方を学ぶことができる問いの工夫を感じた。また、設問をよく見ると、初めは共通するフォニックスの発音を明示する一方、課題の回を重ねるごとに生徒が自分で共通性を発見できるよう段階的に内容(下右図の赤枠内)が設定されていた。

図左:第2回の課題の設問 図右:第4回の課題の設問(赤枠は作成者が加筆)

図左:第2回の課題の設問  図右:第4回の課題の設問(赤枠は作成者が加筆)

教材制作の意図として、木村教諭は探究的な視点を英語科にも取り入れたいという思いがあるという。

重要単語を示して意味を調べさせるだけでは、生徒はどうしても受け身になってしまいます。また、本校は探究的な学習に舵を取っています。言語学の視点を深めることは探究の大きなテーマになりうると考え、個別の単語から共通性や法則性を見出す課題を出しています。こうした課題を積み重ねることで、例えば長文を読んだとき、分からない単語があっても、自ら仮説を立て、ぐんぐん読み進めていける姿勢を将来的に身に付けていってほしいです。

言葉の解像度を高め、自ら学びを深めるツールとしての辞書

 一語一訳の英語理解を刷新したいという思いでDONGRIを導入した同校は、その効果をどのように感じているのだろうか。語彙学習の仕方を単語帳から辞書中心へと切り替え、個別の単語の意味ではなくコアなイメージを意識づけてきたことを、木村教諭は次のように話す。

私はよくworkを辞書で引かせます。代表的な意味を端的に示す単語帳とは違い、膨大な語釈と用例が表示されます。辞書を見る習慣を身に付けるだけで、一語一語に多様な意味があり、英語と日本語では単語の意味範囲が異なるのだから単純に置き換えはできないことを、生徒は目で見て感じられると思います。
けれども、それを全部覚えようとすると、生徒は嫌になってしまう。そんなとき、workの「やるべきことをやる」というコアな意味に気づけば、「(会社員が)仕事をする」「(薬が)効く」「(機械が)動く」のように、個別の意味も類推できるようになります。生徒には膨大な用例に触れながら、同時に応用のきく語のイメージをつかめるようになってほしい。効率的な語彙学習も大事ですが、本校では中高一貫の6年間をかけて、そうした言語観を育んでいきたいです。

 上記のような指導観を具体化してきた木村教諭は、最近生徒の言葉の解像度が高まってきていることを感じているという。

 例えば先日、excuseとallowの違いは何かと、生徒から質問を受けた。「excuse=許す=allow」での理解に甘んじていれば、こうした問いは生まれない。「許す」の置き換えでは捉えきれない二つの語のニュアンスの違いに意識が向くようになったからこそ生じる問いだと感じた。そうした類義語の違いを尋ねてくる生徒が、最近増えてきたと、木村教諭は感じている。そんなときこそ生徒にはDONGRIを活用してほしい、教師としても生徒が学び続けるためのツールの使い方を伝えていきたいとの思いを、木村教諭は次のように話してくれた。

外国語を学ぶには、週5回の英語の授業だけではとても足りない。そのため教師がいなくても、生徒が自分で学びを深めていけることを指導のゴールと考えています。だからこそ、教師が教えるべきことは、個々の単語の意味ではなく、辞書の使い方だと考えています。

取材を終えて

 辞書引きという細かなプロセスの中にも、言語学の探究的な視点を生徒にもたせようとする木村教諭の配慮が素敵だと思いました。また、生徒が発見する実感を伴いながら、「を含むことば」「で終わる言葉」など検索条件の切り替えの使いどころを知る学習は、とても効果的だと感じました。そして、共通の辞書アプリをもつという学習環境の設定によって、言語学の視点を身近に感じられる生徒の学びが実現していることを知り、大変うれしく思いました。
 DONGRIを使いこなすことが、生徒一人一人の探究を深め、「志」の実現につながることを願っています。木村先生、ありがとうございました。

教育コンテンツ事業部 平松和旗

教育コンテンツ事業部 平松和旗

山脇学園中学・高等学校

木村圭佑先生

導入時期2023年

https://www.yamawaki.ed.jp/
〒107-8371 東京都港区赤坂4-10-36
TEL:03-3585-3911

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