済美平成中等教育学校_辞書アプリDONGRI活用事例

済美平成中等教育学校 ×辞書アプリDONGRI

 済美平成中等教育学校は、自律・創造・対話の校訓のもと、自らの手で未来を拓く力=「つなぐ力」を育むことを大切に教育に取り組む中高一貫校だ。2021年度からDONGRIを学校全体で導入している。教育の特色の一つに、1期生から24年間実施している論文活動がある。「『読む・書く・話す』というすべての人にとって必要な能力を生徒に身に付けてほしい」という当時の校長の願いから始まった論文活動は、当校の伝統となっている。
 今回、国語科主任の濱田先生からDONGRIの活用について伺った。国語科では、読み書きの基礎や語彙力を高めるリテラシー教育に重点をおいているという。「レベルの高い文章をなんとか読みこなしてやろうと生徒が考えて、積極的に辞書を活用し、挑戦していってもらいたい」という濱田先生の思いは、実際の授業の中で貫徹されていた。

語彙力への課題意識を校内で共有

 リテラシー教育に重点をおく学校の課題意識には、どのような背景があるのだろうか。
 濱田先生は、教員にとっては「普段から用いる言葉」が、生徒にとっては「小テストで問われるものに過ぎず、日常生活の中で使用するのは難しい言葉」になっている状況を感じるときがあるという。例えば、先日授業の中で「おくびにも出さない」の語を使って説明したところ、DONGRIで意味を調べる生徒が散見された。尋ねると、多くの生徒にとって難しい言葉だったようだ。濱田先生は、単に知識不足を責めるのではなく、世代を超えた人間関係から多くのものを吸収してほしいとの考えを、次のように話してくれた。

「知らない言葉と出会ったとしても、それが授業の中であれば辞書で引くことができるからいいです。けれども、普段の会話の中で出てきた知らない言葉について、後で辞書を引くことはなかなかしませんよね。そうすると、いつまでも分からないままでいてしまうし、生徒にとって少し世代が離れた人の言葉は受け取れなくなってしまう。語彙力を高めることで、生徒にはもっとたくさんのものを吸収できるようになってほしいと思っています。」

 こうした課題意識は、校内の先生に共通するものであるという。学校では、教材や授業実践について話をする時間を教科会でとるようにしている。そのとき大切なことは、具体的な教材の活用法より先に、現状の課題をざっくばらんに共有することだという。国語の教科会では語彙に関わる課題が話し合われ、「どうしたら解消していけるか」という内容を話し合うことが多い。そうした土壌を共有したうえで、濱田先生は実際に使用した教材のデータや後述するDONGRIのしおりタグ機能を紹介しているという。学校が同じ方向を向きながら、それぞれの先生が取り組みやすい方法で課題と向き合うゆるやかな連携が感じられた。

国語科主任の濱田教諭

国語科主任の濱田教諭

 他にも、漢字や語彙の小テストを毎回の授業の中で行うなど、学校ではリテラシー教育に力を入れている。こうした指導の成果は、特色である「論文活動」の中でどのように表れているのだろうか。濱田先生は控えめに、次のように話す。

「インターネット検索を活用する生徒が増えているためか、本文の語彙自体のレベルが上がっているように感じることも多くあります。その割に、『なので』など、話し言葉が混じったアンバランスな文章を書く生徒も一定数います。そのため、『語彙を増やすこと』を、生徒が触れる文章のレベルを上げることによって達成する必要があると感じています。『レベルの高い文章を、なんとか読みこなしてやろう』と考えて、積極的に辞書を活用し、挑戦しようとする態度を高めていきたいと考えています。」

読みこなそうとする挑戦を見守る

 今回の取材に先立って見学した国語科の授業では、こうした濱田先生の思いが随所に感じられた。
 授業で扱ったのは、読書教材である森鴎外の「最後の一句」(教育出版『伝え合う言葉 中学国語3』)だ。作品を読み、本時の問いについて自分の考えをロイロノートのスライドにまとめる課題を出した。
 この作品は、死罪を言い渡された父を助けようと、長女のいちが奉行所に自ら身代わりになることを願い出るという内容だ。「たとえ身代わりとなったとしても、父とは会わせることはできない。死をもって遂げようとしたことの結果を見届けることはできないがそれでもよいのか」という奉行所の高慢な物言いに、「お上のことにはまちがいはございますまいから」と、いちは「最後の一句」を告げた。いちの言葉には、単なる献身に留まらない、役人に対する反抗の念が込められている。内容や表現が身近なものでない点には、難しさを感じる生徒もいただろう。

DONGRIを手掛かりに 作品を読み解く生徒

DONGRIを手掛かりに 作品を読み解く生徒

 濱田先生の問いは、「いちの『最後の一句』は、なぜ奉行の心に『ただ氷のように冷ややかに、刃のように鋭い、いちの最後の一句が反響している』と感じられたのか」という内容だ。問いを共有すると、生徒たちは20分ほどをかけて、自力で作品を読み解いていく。分からない表現や言葉に出会っても、生徒はDONGRIで意味を調べたり、近くの友達と解釈を確かめ合ったりしながら、集中して読み進めていく。

iPadの画面分割機能で左側にDONGRI、右側にロイロノートの画面を表示

iPadの画面分割機能で左側にDONGRI、
右側にロイロノートの画面を表示

一人で集中して読む、友達と確かめ合う、を繰り返しながら読み進める様子

一人で集中して読む、友達と確かめ合う、
を繰り返しながら読み進める様子

 濱田先生は机間指導をしながら、生徒が読み進める様子を見守っている。途中、単語の切れ目が分からず辞書をうまく使えていない生徒が散見された。濱田先生は個別にフォローを入れるが、全体に注意を呼び掛けることはしない。その意図を、濱田先生は次のように話す。

「何人かに、辞書で調べるための単語の切り方を伝えました。その後生徒同士で話し合いをさせる中で、生徒発信でそれを広めてほしいと考えていました。そうすることで、単語の切れ目に対する意識や辞書の正しい使い方を、生徒が自分たちで発見した気分で理解することができます。」

 授業の中で濱田先生は、生徒の求めに個別に応えることはあっても、作品の描写やストーリーの概要について全体に向けて解説することはしなかった。そうした雰囲気の中でこそ、辞書や友達の力を借りて読み解いた登場人物の言外の心情は、生徒にとって大きな発見や達成感を伴って理解されていくのだろう。濱田先生のいう「レベルの高い文章を、なんとか読みこなしてやろうと考えて、積極的に辞書を活用し、挑戦しようとする態度」がぐんぐん高まっていくよう様子を、間近に見た思いがした。

DONGRIの活用法

 DONGRIには、調べた言葉を記録し、任意のグループに分けて保存することができる「しおり・タグ機能」が備わっている。濱田先生は、現代文でも古典でも、調べた語句を作品ごとにまとめて保存させているという。それには、次のようなねらいがある。

「定期考査では、しっかり作品を読み込めていないと解くことができない読解問題を出します。そのため、生徒は作品を読み直します。そのとき辞書を改めて引くことは手間なので、作品ごとに語句を整理して保存するよう伝えています。また、しおりを付けていれば、何度も辞書で引いた語については『まだ覚えられていなかった』と、自分の学習状況を振り返ることができます。同じ語句でも、前の作品と今読んでいる作品で用法が異なっていることにも気づくことができます。『自分が覚えていた意味とは別の使い方があったんだ』という発見ができ、1つの語の多様な意味を理解できるという点で、語彙を広げることにもつながります。」

 生徒の中には、ネット検索で単語を調べる方が便利に感じる生徒もいるだろう。それでも辞書で調べることを促す濱田先生は、その有効性を次のように話す。

「例えば古典作品に使われる語句であれば、インターネットで調べると、一文丸ごとの全訳が表示されます。それでは、生徒の考える余地がありません。また、文を単語に区切って考えなくて済んでしまうこともマイナスです。1つの単語がもつ多様な意味の発見や、言葉を分解して考える過程を大切にしてほしいです。」

多様なテーマで論じられる論文活動

 取材のあと、図書館に整理された歴代の論文を見せてもらった。「若者と方言」「鰤」「早期英語教育は本当に子供を幸せにするのか」など、生徒発信のテーマや問題意識は多岐にわたる。先生と生徒が二人三脚で取り組み、8000字を超える論文に仕上げていくという。これまで2467本の論文が完成し、それらはデータベース化されて、後輩の参考資料として読み継がれていくそうだ。

 濱田先生は、「新書や図鑑で読んだ表現が、次第に生徒の言葉になって、論文の中で使われているように感じる」という。ここでも、生徒が自力で読みこなそうとする態度が語彙力の高まりに結びつく様子が見て取れる。

 また、生徒たちは総合的な学習の時間の中で、図書館の使い方や図書の分類法など、情報収集の基礎を学ぶそうだ。図書館司書の先生は、「まず百科事典や辞書で言葉の定義や周辺知識を学び、そこから知識を広げていくよう指導しています」と話していた。執筆者が気になった「変わり者と普通 同調圧力に負けない変わり者」という論文の冒頭には、次のように書かれている。

「まず、辞書で普通という言葉は次のように定義されている。『他の同種のものとくらべて、特に変わった点がないこと。一般に。』(『明鏡国語辞典 第二版))」「ありのままであるさま。正直なところ。(『明鏡国語辞典 第三版』)」

論文では、辞書間の語釈の微妙なニュアンスの違いから、よく使われる「普通」という言葉の曖昧さを指摘し、問いを明確にする論述へと筆を進めている。冒頭の文章を読んだだけでも、辞書の使用が生徒にとって身近であること、語彙力を高めることで言葉への感度が磨かれていることが歴然と表れているように感じた。言葉との向き合い方について、濱田先生は次のようなメッセージが生徒に伝わることを願っている。

「『言葉への感度の高さ』は、同じテキストから多くのものを発見する力となり、生徒たちの知的レベルを指数関数的に高めてくれるものだと思います。語彙力や論理的思考力に支えられた『言葉への感度の高さ』は、自分の人生を豊かにするものと心得て、日常接する言葉一つ一つを大切にしてもらいたいと思います。」

インタビューを終えて

 生徒の達成感や発見の喜びを大切にする濱田先生の指導や考え方が、とても素敵だと思いました。DONGRIのしおり・タグ機能の活用法も、生徒が学習を振り返ったり、既習事項の積み重ねから達成感を得たりすることにつながっていると感じました。
 歴代の多くの論文は、決して一朝一夕に答えを導くことができない問いに、これまで多くの生徒が果敢に向き合ってきたことを表すものでした。レベルの高い文章に多く触れ、高めてきた語彙力が、そうした問いと向き合う力につながっているように感じました。何より、一人一人の生徒の探求に、二人三脚で取り組む先生方の指導のきめの細かさに感服する思いでした。そして、難しい課題にも集中して取り組む生徒の手元にDONGRIが開かれていることを、とても嬉しく思いました。濱田先生、ありがとうございました。

教育コンテンツ事業部 平松和旗

教育コンテンツ事業部 平松和旗

済美平成中等教育学校

濱田和幸先生

導入時期2021年

https://www.saibi-heisei.ed.jp/
〒791-0054 愛媛県松山市空港通5丁目 6-3
TEL: 089-965-1551 FAX: 089-972-5335

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