長野日本大学中学校・高等学校は、長野県長野市にある中高一貫教育を行う日本大学系列の私立校。2018年度より学校全体のICT化の施策として新入生ひとり1台iPadの貸与を始め、2020年度までには中高全学年に拡大。辞書環境の不統一による指導のしにくさ、国語系横書き辞書への違和感などを解決するために2019年度からイーストの辞書アプリ「DONGRI」を中高で導入。 高等学校英語科 柄澤祥一郎教諭、国語科 藤巻靖教諭に「DONGRI」を活用した授業の効果について話を聞いた。
積極的に創意工夫「観光案内動画」:高等学校1年英語科の活用例
ICT教育ニュースに掲載
英語科の柄澤教諭は、導入当初の2018年度から授業でiPadを活用してきた。2019年度1年生は、アクティブラーンニングの一環として長野県の観光スポットを英語で案内するプレゼンテーション制作に取り組んだ。生徒らは数名のグループに分かれてKeynoteでスライドを作成しクラス内で英語による発表会を実施。さらに発展して、外国人旅行者役の生徒とインタビュアー役の生徒のロールプレイングの様子をiMovieで撮影し動画制作にも挑戦した。旅行者とインタビュアーのセリフは生徒らが考えて英作文、各自が暗記し撮影に臨んだという。
高等学校英語科 柄澤祥一郎教諭
そこで活用したのが「DONGRI」だ。辞書を引く時、単語の訳だけに注目するのではなく、一緒に掲載されている例文の中から最も近い意味のものを作文に活用するよう指導していると、柄澤教諭は語る。「DONGRI」はタッチ操作でそれらの例文を読み上げてくれるので、発音を確認しながら発表の練習を行えた点も非常に有効であったという。細かな文法を気にする生徒もみられたが、最小限の指摘に留めた。小さな点にこだわらずに「まずやってみよう」という気持ちで最後までやり切ることを教諭が重視したからだ。
英語で案内するプレゼンテーション作成に挑戦した生徒たちからは、「友達と楽しく、色々と意見を言い合いながら作成できた」「外国人の視点になって考えることができた」「身近の場所を英語で紹介することが意外と難しかった」「英作文をすることや辞書を引くのがまったくたいへんではなかった」といった感想が聞かれたという。
動画制作に取り組む生徒らの姿勢は、非常に積極的で意欲に満ちていた。完成したiMovie の動画を見て、生徒のクラス担任教諭からその出来栄えに驚きと称賛の声があがったという。教諭らの想定を大きく超え、英語の字幕を表示したり、グリーンスクリーンエフェクトを用いて諏訪大社の背景と合成したり、英語のジョークを交えたり、映画仕立てにするなどの創意工夫が随所に見られた。
今回のアクティブラーニングでは、グローバルな視点で学習できたことが、テストや受験のためだけではなく、コミュニケーションの手段としての英語を意識することにつながったのではないかと、柄澤教諭は振り返る。また、デジタル機器をツールとして活用した創造的な学びで、今後も生徒の主体性ややる気を高めていきたいと期待を込める。
2020年度は新型コロナウィルスの影響があって個人での制作に挑戦中だ。
生徒制作のiMovieによる動画:字幕や背景合成などの工夫が見られる
生徒が作成する小テスト、圧倒的な語彙力向上を実現:高等学校2年国語科の活用例
藤巻教諭が担当する2年生16名が参加する現代文の授業では、語彙力向上のための小テストを週3回毎時間実施している。特徴的なのは、この小テストの作成者が教諭ではなく、生徒という点だ。教諭は、『大学入試国語頻出問題1200』(株式会社いいずな書店)から学期内に行うべき範囲を決めて生徒に指示。生徒らは、毎時間の試験範囲と作成担当の割り当てを決め主体的に取り組んでいる、その様子をメンターに徹して見守るのだ。
担当の生徒は小テストを作成して登校、授業の冒頭で作成者以外の生徒全員のiPadに問題が配信される。生徒らが小テストの解答に取り組んでいる間に、作成者はまず藤巻教諭に問題の作成意図を説明するのだ。その後、各自で自己採点を行うのだが、ポイントとなるのは作成者がクラス全員に解説する問題作成意図のプレゼンテーションだ。これが全員の知識定着に非常に有効だと教諭は語る。
高等学校 国語科 藤巻 靖教諭
「DONGRI」の「漢和辞典」で字義理解と達成感を共有、高い正答率の理由
問題作成者によるプレゼンテーションは、DONGRIで利用する「新漢語林」の該当画面を生徒のiPadに共有して行われる。同音・同字異義語を出題する際に、その字が持つ多様な意味や成り立ちを説明するのだ。また試験解答にも該当画面のキャプチャが貼付されるので、生徒は同じ画面をDONGRIで表示して「しおり」をつける。生徒らはこのような活動を通じて、進捗や達成感を共有するのだという。「しおり」とはDONGRIのブックマーク機能のことで、学習の履歴を残すという意味で、特に意識させているという。
難関大学入試頻出問題から構成される小テストの平均正答率は、常に80%以上で90%を超えることもある。これは、生徒が問題を作成している効果だと藤巻教諭は力を込める。教諭が同じ範囲で試験を作成しても同じような高得点にはならなかったのだ。仲間である生徒が作った問題だから「解きたい」という良い意味での競争心や連帯感が芽生え、小テストのための家庭学習は自発的なものになっている。宿題ではないのでやらされているという感情がない。自主的に生徒どうしで取り組む小テストは、様々な感情を伴う記憶であることから忘却しにくいというメリットがある。自学に頼りがちな意味調べは、生徒による小テスト作成やプレゼンテーションによって主体的で協働的、探究的な学びに変わり、しかもその上で難関大学入試レベルの語彙習得を実現し非常に大きな効果を上げている。
漢文・古文への応用力、横断的な辞書の活用
2年生の現代文の語彙学習で漢和辞典を活用するのにはもう1つ狙いがある。それは字義の理解を通じて、漢文や古文を読み解くために必要な類推する力を養うことだ。古文を学ぶ時にも現代語訳をただ記憶するといった学び方ではなく、字義を意識して古語辞典と漢和辞典を横断的に利用してほしいと教諭は語る。
「DONGRI」ならこの二つの辞典を横断して使うことが容易だ。例えば「かなし(愛し)」という古語の場合、漢字表記である「愛」を漢和辞典で引き、「愛しい(いとしい)」という字義と絡めて記憶する。「愛」と書いて「かな」と読む名前の生徒が、「DONGRI」を活用してこの字義についてプレゼンテーションを行ったところ、さらに授業が盛り上がり、感情を伴った忘れにくい記憶となったと藤巻教諭は笑顔を見せる。
左)「新全訳古語辞典」の「かなし」の画面、タブで「愛」の画面へ切り替え可能
右)「新漢語林」の「愛」の画面
辞書を使うのは生徒、自分らしく生きるために必要な語彙力を
iPadなどICT機器を導入していても辞書の導入に対して不安や迷いがあるかもしれないが、辞書を使うのは教諭ではなく生徒なので全く心配はいらないと柄澤教諭、藤巻教諭は声を揃える。生徒らは語彙力を得るためのツールとして「DONGRI」を直感的に使いこなせるからだ。
紙の辞書に近い視認性、複数辞書の横断や履歴のタブ機能といった利便性を持つ「DONGRI」を活用し、生徒らに生きる上で必要な表現力を身につけてほしい。単に意味を記憶しテストで得点することを目的とせず、自分の考えを端的に的確に伝えるための語彙力、自分らしく生きるために必要な語彙力を獲得してほしいと教諭らは考えている。