島根県立松江南高等学校は、1961年に創立された歴史ある高等学校だ。近年では単位制の導入、探究科学科の設置、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定等の変革を進め、生徒の可能性を引き出す教育環境を提供している。同校は、島根県の「教育ICTモデル校」として、1人1台端末を活用した授業実践を積極的に行っていることでも知られている。
音読アプリQulmeeは2023年度夏から高校1年次、2年次で試験的に利用し、今年度からは全学年での利用を予定している。松江南高等学校の、これまでの実践内容や音読に対する考えについて、英語科の勝部浩志教諭と田中匡志教諭にお話を伺った。
生徒が主体的に音読に取り組める環境へ
松江南高等学校では2022年度から、Chromebookで1人1台の運用を始めた。端末を有効に活用したいという想いに加え、英語科においては特に「音読指導」を効果的に進めたいという話が上がっていたという。
従来は、①家庭学習で音読を課しても学習の実態が不透明だったこと、②授業で音読活動を行うとそれだけでかなりの時間を消費してしまうことの2点が課題だった。「端末を活用すれば、音読の評価や、データ収集、課題の集約も実現できるのでは」と考え、音読アプリの調査を始めたという。
複数のアプリを比較した結果、Qulmeeの「教員からの課題提示と、生徒の自主学習を両立できる点」が評価に値したと勝部教諭は話す。「課題配信ができるツールはたくさんありますが、生徒自らが必要に応じて主体的に音読できる環境を整えたいと考えていました。」
学期途中の予算化が難しいという問題は、Qulmeeのトライアルキャンペーンを活用することで解決。有償導入の前に本格的にQulmeeを利用することができた。教員からの課題配信や生徒の音声提出など、導入当初は慣れない点もあったが、教員間の連携で課題配信が効率化した結果、徐々に日々の学習活動に組み込まれていったという。
英検対策や探究学習でもQulmeeを活用
高校1年次を担当した田中教諭は、平日は授業で扱った英文、週末は副教材(英語総合問題集)の英文という2本柱でQulmeeを活用してきた。2~3日に1回のペースで課題が配信されるため、自然と英語学習の中で音読する習慣が身につく取り組みと言える。
勝部教諭が担当した高校2年次では、教科書で扱う英文だけではなく、「英検の二次試験対策」や「探究学習」にもQulmeeが活用されたという。
英検の二次試験では、英文パッセージの音読や、面接官との受け答えが求められる。正しい発音で解答できるよう、練習に用いたのがQulmeeの「自己学習機能」だ。生徒自身が英文を登録するだけで、そのモデル音声を聞くことや、自分の音読をAIによる発音判定で省みることができる。勝部教諭が活用方法を伝えたところ、生徒らは自主的に使いこなしていったという。
モデル音声は、様々な話者(性別・国を7種類から選択可能)の音声で再生することができる。勝部先生は、「現在の共通テストでは、ノンネイティブの音声で出題されることもあるので、偏りなく聞くと良いよ」と生徒によく伝えているそうだ。
「探究学習」は自分の興味・関心のあるテーマを探究していく活動のことで、同校の探究科学科では、各生徒が探究の最終結果を英語で発表する。Qulmeeは英語の発表を練習するツールとして活用されていたそうだ。
(左)話者の切り替え(右)自己学習機能
「音読」は英語の基礎トレーニング
田中教諭は音読を重視する理由を次のように話す。
英語をきれいに発音したいと憧れている生徒は多いと思います。そこをクリアできれば英語をどんどん好きになると思います。正しい発音ができれば聞き取ることもできるし、音声は英語を身につけるうえで切っても切れないものです。にもかかわらず、授業の中での扱い方が難しかったり、後回しになったりしがちです。Qulmeeを1人1台端末で活用することによって、効果的な指導ができるようになり良かったと思います。
勝部教諭も田中教諭の発言に共感し、「音読はスポーツでいう基礎トレーニングの部分で、英語学習すべての根幹になると思います」と話した。
Qulmeeを主体的に活用し、4技能を高める
Qulmeeの導入後、授業では音読にかける時間が減り、その分他の活動に回すことができているという。また、生徒の音読に対する抵抗感が弱まり、以前より意欲的に英語を話そうとする姿が見られるようになったそうだ。勝部教諭は「昨年度、高校2年生8名がSSHの海外研修に参加しました。研修先で英語を話せるよう、Qulmeeを使って音読に取り組む生徒もいました」と話す。進んでツールを活用しようとする、生徒の主体性が感じられるエピソードだ。
音読の効果について勝部教諭は、「Qulmeeを使ってきた学年はリスニングの帯活動をほとんどやらなかったのですが、模擬試験や外部試験(GTEC)のスコアはほぼ例年通りでした。特にGTECのリーディングにおいては、昨年度を上回る結果となり、GTEC奨励賞も受賞しました。Qulmeeでしっかり音読に取り組んだ結果、4技能を高められたのだろうと思います」と話す。
2024年度は高校1年~3年の全学年で利用を予定している。今年度2年次を担当する田中教諭は、「1年次は量をこなして、音読の習慣が身についてきた段階だと思います。今年度はAIによる発音判定評価も活用しながら、音読の質にこだわるような課題のやり取りを進めていきたい」と話した。
勝部教諭は「1年次は音読の習慣化、2年次は評価を意識した取り組みという運用が校内で浸透してきました。3年次は、受験勉強の中に音読を取り入れて、英語の総合的な力を身につけていってほしいと思います。今年度は、1年次から3年次までを一連の取り組みとして確立する1年にしていきたい」と話した。
端末を活用し、英語学習の根幹として「音読」に取り組んでいる松江南高等学校。今後も「音読」で英語の4技能を高め、大学受験やその先にも活きる英語力を身につけていってほしい。