京都市立日吉ケ丘高等学校 ×音読アプリQulmee

JR京都駅から一駅、紅葉の名所として知られる東福寺を横目に小高い丘を登ったところにある京都市立日吉ケ丘高等学校は、「自律・協働・創造」の教育目標をもとに「世界をつなぐ越境者 ~Beyond the hill today. Beyond yourself tomorrow~」を育てたい生徒像として教育活動を行っています。特に、英語教育には力をいれており、学内には「英語村」が設置され、ネイティブスピーカーが常駐しています。誰でも気軽に英語に触れあえる環境づくりがなされています。また、教員も英語村で開催される研修会やセミナーを通じて、様々な指導法を熱心に学んでいます。生徒だけでなく、教員も常に学び続ける姿勢を持ち、よりよい学習環境を作り出せるよう励んでいます。今回は英語科の岩﨑美佳先生が実践した、音読アプリQulmeeを使った授業実践についてご紹介します。

自発的学習のきっかけづくり ~音読アプリQulmeeの活用例~

英語教育 2020年2月号掲載

『自発的学習』を促すための学びについて考える

どうすれば生徒の学びの意欲を向上させ、『自発的学習』を促せるのか。同様のテーマで、全国の多くの先生方によって前向きな授業改善が積極的に議論され、すばらしい実践が数多く報告されています。私も日々の授業の中でそういった実践例を大いに参考にさせていただいているのですが、授業自体はよく機能していても、生徒の『自発的学習』を促せるところまで到達させるのはかなり難しいと感じてきました。どうすれば、生徒は自らの意思で「もっとできるようになりたい」と思い、実際に自分の自由になる時間を割いて学ぼうとしだすのでしょうか。

特に英語を苦手とする生徒たちの学習意欲をどうかきたてるかは、ここ数年の自らの課題です。5領域のバランスを考えながら、様々な活動を授業内で行う中で、英語を苦手とする生徒が最も活発に、楽しそうに取り組んでいると感じるのは、英語を話す活動です。また、生徒の「英語を話したい」「英語でコミュニケーションをとりたい」という思いは、他の技能を伸ばしたいという思いよりも強いことも分かってきました。そこで、授業では音読活動に力を入れ、表現活動としてスピーチやプレゼンテーション、ディベートをできる限り多く取り入れ、ALTの先生方の協力を得て、個別のインタビュー活動も数多く行ってきました。結果、生徒の授業への取組み姿勢はより積極的になり、教員やクラスメイトからのポジティブな評価を得ることで、各活動における達成感はある程度感じているように見えます。ただ、それらの取り組みが『自発的学習』につながっているかと言えば、そうではないようです。生徒の「もっとできるようになりたい」を引き出すには、「できた」「わかった」という達成感や満足感だけでは足りず、他人からの評価に加えて、自分ができていないところを客観視でき、その点を自己鍛錬できるようなツールが必要なのではないか、と考えるようになりました。

音読アプリQulmeeの導入

「音読アプリQulmee」は、音読指導用のWebアプリです。それぞれの生徒にアカウントが与えられ、インターネット環境さえあれば、いつでもどこでも登録された課題文の音読練習を行うことができます。英文は、アメリカ英語・イギリス英語・インド英語の発音での読上げが可能で、速さの調節も5段階から選ぶことができます。生徒が録音して提出した音声は教員が3段階で評価し、コメントと共にフィードバックできます。

実践1 教科書の本文の音読課題

教科書の本文(60ワード程度)を登録し、期限を設けて音読課題としています。この課題の評価ポイントは正しい発音、英語らしいリズムとアクセントです。英文の読上げ機能だけでなく、基本語彙に関しては1語ずつ発音を確認し、録音して発音を評価する機能もついていることから、生徒は語彙レベル、単文レベル、文章レベルでの音読練習が可能です。同時読み、Listen & Repeat、Shadowingなど、授業でも行っている音読方法で各自練習し、より英語らしい英語の発話習得を目指します。

実践2 本文要約や自由英作文の音読課題

『英語表現』や『コミュニケーション英語』の授業で、自己表現活動として取り組んだ本文の要約や意見を述べるような自由英作文を、添削しリライトさせた後、Qulmeeに録音して提出することを課題とします。Qulmeeの個人の学習帳のページでは、各自、自由に英文を登録することができます。この際、音声入力することで、英文登録の時間を削減するとともに、自分の発音が正しく認識され、入力されているかどうかの確認を行うことも可能です。登録された英文は読上げ機能を使って課題文と同様に音読練習を行い、録音したものを提出します。

実践3 スピーチやプレゼンテーション練習

本校では、スピーチやプレゼンテーションなどの個人のパフォーマンス評価を、ALTの先生方協力のもとお昼休みや放課後の時間を利用して行っています。生徒は各自練習し、好きなタイミングで発表を行いますが、その練習用ツールとしてQulmeeでの音読練習を推奨しています。添削された原稿をQulmeeに各自登録し、納得のいくまで練習してから実際にALTの前で発表するという流れです。

Qulmeeがもたらしたもの

●発音・リズム・アクセントの改善

スマートフォンを開けば、すぐに登録された英文を見て、聞いて、読んで、練習を繰り返すことができます。これまでは、発音の分からない単語は適当に発音して済ませたり、読まずに飛ばしてしまうということがよくありました。自分では合っていると思い込んでいて、誤った発音アクセントで音読しているケースも散見されました。さらに文レベルでの音読は、音源のない英文は我流で行う他なかったものが、Qulmeeを使いだしてからはほぼ全員が、モデル文を聞いてから音読するというプロセスを確実に行うようになりました。過去に提出された課題を聞き比べてみると、語彙レベルでの発音アクセントはもちろん、センテンスレベルでのリズムや強弱も、大きく改善されていることが分かります。

●自発的学習時間の増加

Qulmeeを使いだしてから一番うれしかった変化は、生徒が圧倒的により頻繁に、長時間、個別での音読練習を行うようになった点です。これは、課題に取り組もうと思った瞬間、手元にあるスマートフォンからすぐに課題にアクセスできることが大きな要因だと思われます。生徒のアプリ使用時刻を確認してみると、登下校中の電車を待つ時間、休憩時間やお昼休み、放課後の部活動が始まるまでの隙間時間、寝る直前の深夜など、実に様々な時間にアプリを使用していることが分かります。また、生徒は録音された自分の話す英語を聞くことで、客観的に自己評価し、納得がいくまで繰返し練習します。「提出課題の質を高めたい」という思いが、自発的学習時間の増加につながっているようです。しっかり自己学習した結果、Qulmeeを使って音読した英文にある語彙や表現の習得率は、そうでない英文に比べて高いものとなっています。

●評価の効率化

パフォーマンス課題を与えると、どう評価するかという問題が必ず付いてきます。また、その評価には膨大な時間と労力を要します。Qulmeeでの評価は、インターネット環境さえあれば、どのPCからでもログインして行うことが可能です。生徒同様、教員も隙間時間を有効活用し、迅速に簡単に評価を行うことができるので、大変助かっています。生徒の提出した課題と3段階の評価、および評価コメントは生徒の個人ページにログとして残ります。評価の画面が活動の記録としての役割も果たしています。

●『自発的学習』の促進

Qulmeeを使用してみて、自己評価できる仕組みと、自分のペースで容易に自己鍛錬を積める仕組みが、自発的学習のきっかけになっているように感じます。他者からの評価だけでは、さらなる練習を促すモチベーションとしては不足がありました。目標とするモデルが与えられ、自らの足りなさを客観視し、それを改善する術があれば、多くの生徒たちは自らそれに取り組もうとするのだと思います。

京都市立日吉ケ丘高等学校

左から石井裕子先生、倉上俊哉先生、岩崎美佳先生

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