2021年に創立百周年を迎えた神戸龍谷高等学校。浄土真宗の教えに基づき、「和顔愛語―いつも笑顔を忘れず、人にやさしくあれ」を校訓としている。「龍谷総合コース」「特進文理Sコース」「特進グローバル文系コース」「特進グローバル理系コース」「中高一貫コース」の5つのコースがあり、進みたい進路に合わせて学習を積み上げることができる。
辞書アプリDONGRIは2023年度から、高校1年次、中学1年次に導入。今回は野田浩子教諭(国語科・高校1年担当)にインタビューを実施した。辞書でことばを学習することの価値について、授業での活用方法と交えて話してくれた。
「辞書にはドラマがある」辞書引きを促す先生の想いとは
神戸龍谷高等学校では、1人1台iPadを所持しており、国語科ではDONGRIの他にも電子ノートや国語便覧を導入している。古文では、本文を電子ノートで共有し、文章の上から要点を記入していくことで板書の時間を削減し、その分、内容を伝えることに多くの時間を充てるといった使い方をしているという。
古文の授業における電子ノートの画面
このように、教員にも生徒にも端末が浸透している同校では、DONGRIをどのように活用しているのだろうか。
主に現代文の授業を担当している野田教諭は、新しい単元に入った際の意味調べにDONGRIを活用している。生徒たちが知らないであろう語句や、意味をより深く知ってほしい語句を抽出して、意味調べプリントを作成している。授業で時間が取れない時は宿題に回すなどして、1単元に1回は辞書に触れる機会を作り、辞書を引く習慣を身に付けさせていったという。
「ものとことば(第一学習社『高等学校 現代の国語』)」の意味調べプリント
最近は、Web検索をはじめ、言葉を調べる手段が数多く存在する。それでも「辞書で調べることに意味がある」という野田教諭は、辞書を引く重要性を次のように話してくれた。
確かにWebは求めている情報がすぐに出てきて、端的に分かりやすい説明を読むことができます。ただ、辞書の語釈はことば選びが秀逸で、辞書を作る人の思い入れやドラマが感じられて好きなんです。1つの言葉には、1つの意味が対応するのではなく、3つ4つと複数の捉え方があり、広がりと奥行きがあります。生徒達には知識を広げるため、Webで簡単に調べるのではなく、こだわりをもって作られた辞書を活用してほしいと思っています。
同校では、三省堂の新明解国語辞典を採用。ユニークな語釈が特徴で、ある程度意味を知っていそうな語句も辞書の語釈を読ませることで、新しい発見が生まれるという。
野田教諭は、辞書を引いたことで生まれた語彙の広がりについて、授業でのエピソードを話してくれた。平野啓一郎『「本当の自分」幻想』(第一学習社「高等学校 現代の国語」より)の文章に、「私たちは、他人から本質を規定されて、自分を矮小化されることが不安なのである」という一節があった。ここで「矮小」という表現を新明解国語辞典で引いたところ、「丈が低い様子だ」と記されていた。
「矮小」を単に「小さいこと」と簡単に説明することも可能だが、辞書を引いたことで「丈が低い」という表現を新たに見つけることができ、「“小さい”ことの中でも身長が低いことを矮小という。では本文の中では、どういうことだろう」と、より深く意味を追求するきっかけができたという。
野田浩子先生
DONGRIでは文中の語句を「さらに検索」できる
また、生徒に語句を調べさせるだけではなく、先生自身も授業準備の際にDONGRIを引いているそうだ。「今の子たちには高校1年生の段階から、もっと語彙力を増やしてほしいと考えています。生徒の分からないところを自分も分からなければ良い授業が出来ないので、辞書でどういう意味かを毎回確認し、いろいろな言葉に言い換えながら新しいことばに出会えるよう、授業を考えていきたいと思っています」
そんな辞書に価値を置いている野田教諭が話す、DONGRIの一番の利点は「持ち運びのしやすさ」だ。「端末1つ持っていれば、国語辞典、古語辞典、英和辞典、和英辞典と何冊も持ち運べるので、いつでもどこでも気軽に引ける。私は紙辞書も好きなのですが、日々重い荷物を持ち歩く中高生のことを考えると、便利だと思います」と話す。
「今後は、生徒たちはもちろん、周りの国語・英語教員にもDONGRIをより使ってもらえるよう、周知徹底していきたい」と話す野田教諭。インタビューを通じて、辞書で確かな知識を身に着けてほしいという、先生の想いが強く感じられた。同校では今後もDONGRIを用いて、生徒の可能性を広げる活動を進めていく。