辞書アプリ「DONGRI」活用で驚異の「辞書使用率ほぼ100%」を実現
ICT教育ニュースに掲載
辞書が使えない子どもたちが増えている
「かしこい子の家には、必ず辞書・図鑑・地図・地球儀が置かれている」という言説がある。疑問や興味に対して、子どもたちが自ら情報を取りにいける環境は、主体的学習者が育ちやすいという論理だ。
特に辞書の活用は「分からないことを調べ、理解する」という、学びにおける基本中の基本だと言えよう。しかし、教育現場からは「最近の子どもたちは、辞書を引かなくなった」という懸念がよく聞かれる。
確かに、ネット検索のほうが早いのは事実だろう。例えば英訳の問題も、ネットで翻訳してコピペすれば一瞬で完了できる。しかし、それは“学習”ではなく“作業”だ。早く解答を得ることはできても、知識としては定着しにくい。やはり、こと学習という意図においては、「自分で調べ、情報を取捨選択する」過程が非常に重要だ。
生徒の辞書使用率がほぼ100%の笠岡高等学校
そんな中、生徒の辞書使用率(月毎)がほぼ100%だという学校がある。岡山県立笠岡高等学校だ。県内でも歴史ある進学校として知られ、ICTの活用にも早くから積極的だ。
これほどの使用率は驚異的と言えるが、いったいどのようなアプローチをしているのだろうか。同校の平松三佳教諭(英語科)に話を聞いた。「本校では、生徒が入学したらまず辞書指導を徹底します。基本的な単語の調べ方から、発音記号、品詞の見方、名詞の可算・不可算などのレクチャーに始まり、授業中でも『分からない単語はすぐに辞書で調べなさい』と口酸っぱく伝えてきました。それができて初めて、家庭学習が可能になると考えるからです」。
続けて、辞書活用の意義や工夫をこのように語る。「同じ英単語でも複数の意味を持つことがあります。辞書引きでは、そこに載っている複数の意味から文脈に適したものを考え、選ぶ必要がありますよね。そうした行為が記憶の定着に効果的ですし、副産物的に『この単語にはこういう意味もあるのか』と知る機会にもなるでしょう」。
そのため平松教諭は、授業中もあえて生徒たちが簡単だと思っている多義語の英単語を調べさせることも多いと言う。「例えば『still』は『まだ』という意味ですが、『じっとした』という意味もある。『中へ』で覚えている『into』には『夢中で』という意味もある。辞書を引く過程で、生徒たちがこうした気付きを得られるように意識しています」。
「still」の画面 (ウィズダム英和辞典)
ネット検索や翻訳は、この「学びの奥行き」を生みにくい。直線的かつ最短ルートで答えにたどりつける半面、良くも悪くもそこで終わりだ。あえて辞書を引くという行為に含められた「余白」が、学びの質を高めていくのだろう。
岡山県立笠岡高等学校
紙の辞書をうまく使えない生徒、持ち運びも大きな負担に
しかしその「余白」も、時として負担となる場合もある。紙の辞書を使いこなすには、何よりもまず慣れが必要だ。同校教務課の角本直人教諭はこう明かす。「自宅での予習で、辞書を引いているだけで2時間かかるという新入生がいたんです。そのせいで寝る時間が足りない、という生徒もいました」。進学校である同校でさえ、高校入学まで辞書を引く経験が十分でない生徒も少なくなかったのだ。
平松教諭もこう付け加える。「辞書指導をする際、教員と生徒が同じ辞書を使っていることが重要なんです。辞書が違えば語句の掲載ページや表示方法も違いますから、どうしても行き違いや時間的なロスも発生します。加えて、紙の辞書は重いです。家庭学習に使ってほしいのに、辞書を学校に置きっぱなしにしてしまう生徒もいました。全員が同じものを持っていて、いつでも使える環境が大切だと思います」。
平松三佳教諭
1人1台のタブレット導入に合わせ、辞書アプリ『DONGRI』を採用
笠岡高校では全教室にApple TVがあり、すぐにiPadの画面を表示できるようになっている。iPadに詳しい教師が多く在籍しており、必要な機器を積極的に導入してきた経緯があって、ICT環境は他校に先駆けて整備が進んだ。その結果、授業での端末活用はもちろん、ICTの活用が学校全体に浸透している。
角本教諭はICT活用の成果として、教師が板書しそれを生徒が写す時間が減った分、問題を解く時間や考える時間が増えたことを挙げる。「英語の授業においては教師用のデジタル教科書も利用しており、端末活用はすっかり定着しています」と平松教諭。職員会議の資料をはじめ、授業以外の場面でもペーパーレス化が進んでいるそうだ。
そんな同校が2021年度から導入したのが、辞書アプリの「DONGRI」だ。「DONGRI」は、言わば「持ち運べる辞書用の本棚」。多数の辞書データをデジタル化して網羅しており、単品でも、複数辞書をパッケージで導入することも可能だ。同校は、英和・和英・国語・古語・漢和・大辞林がセットとなった「ウィズダム6辞書セット」を採用した。
角本直人教諭
導入にあたっては、(辞書活用が重要な)国語科と英語科の教員を中心に選定を行ったと言う。「教員には、各自が使いやすい好みの辞書があります。それをふまえて各教員の意見を総合した結果、『DONGRI(ウィズダム6辞書セット)』を選びました」(角本教諭)。
電子辞書ではなく、アプリであるDONGRIを選んだのは、当時の同校が進めていた1人1台の端末環境整備(同校ではiPad)と足並みを揃えたからだ。角本教諭は言う。「タブレット端末は各家庭での購入が前提です。加えて数万円もする電子辞書まで購入するのは負担が大きいと考えました」。ましてや紙の辞書だと、1冊で約4000円、大辞林にいたっては1万円近くする。それを複数揃えるのは大変だが、DONGRIはウィズダム6辞書セットで6500円。費用面も大きな魅力となった。
アプリ導入により、辞書指導も、辞書を活用した授業も容易に
辞書を端末上で使用できることは、辞書指導でも大きな意味を持った。平松教諭は「紙や電子辞書だと、こちらが指示している箇所を生徒が追えていないことがあります。大画面にDONGRIを表示し、ポイントを指し示しながら英和辞典の使い方を説明できるので、辞書指導が容易になりました」と語る。また、文脈にあった意味を考える際に、生徒が同じ情報に注目できるようになったことも、アプリ導入前との大きな違いだという。
紙の辞書の時代から「生徒全員が同じ辞書を使う必要があると考え一括採用してきた」(平松教諭)という笠岡高校だが、DONGRIの導入を機に辞書の有効活用がさらに進化したと言えそうだ。
辞書引きに抵抗がなくなり「分からないことは調べる」という癖がついた
高い辞書利用率の秘訣を問われても、「本校では、変わったことは特にしていないんです」と謙遜して語る平松教諭。「本校生徒の素直でまじめな気質も辞書利用の定着に繋がっているのでは」と角本教諭。しかし、「言葉の意味を調べる」という定番の使いかたでも、生徒たちからは確かな変容を感じると言う。
辞書引きに2時間かかる生徒はもういない。辞書を使うことに抵抗がなくなり、何より「分からないことはすぐ調べる」という習慣が身についた。「DONGRIはマルチプラットフォーム・マルチデバイス対応。1ライセンスで端末3台まで使用でき、Googleアカウントでシングルサインオンができる手軽さも、使用の障壁を下げているのではないか」と開発元のイースト社は分析する。
こうして生みだした時間を有効活用し、授業では意見発表などのアウトプットにも、より時間を割けるようになった。DONGRI活用で、思考力・判断力・表現力の伸長にも奏効しているようだ。