三重県立飯野高等学校は、英語コミュニケーション科と応用デザイン科からなる公立高校。英語コミュニケーション科に在籍する生徒のうち、外国にルーツを持つ生徒が3分の2を占めており、日本国籍のほか、ブラジルやペルー、フィリピンなど12か国の生徒が学んでいる。英語教育を中心に据えながらも、日々さまざまな言語が飛び交う環境にあり、異文化理解・多文化共生を旨とした学科である。
特徴的なイベントとして、「英語表現演習発表会(スピーチ発表会)」が毎年12月に開催される。同校では2021年から、スピーチの取り組みに音読アプリQulmeeを利用している。今回は、スピーチ発表会におけるQulmeeの活用例や、その成果について、英語科の粂内教諭と橋谷教諭に話を聞いた。
スピーチ発表会に向けて、全員が共通して利用できるQulmeeを導入
英語コミュニケーション科では、卒業までの目標に「英語を使って行動、スピーチ、プレゼンテーションができる」と掲げている。英語の授業は週8~11時間あり、1年次からスピーチに必要とされる知識や技術を学ぶ。3年次では、生徒全員が「プレゼンテーション(スライドを用いた情報伝達型スピーチ)」と「スピーチ(スライドを使用しない説得型スピーチ)」に取り組み、今年度はその中で選抜された18名が、12月末に行われるスピーチ発表会に登壇する。
スピーチ発表会当日の様子
Qulmeeを導入する前は、教員やALTのお手本を録音する生徒とそうでない生徒に分かれており、指導に差が出てしまう状況だった。また、統一した練習方法がなかったため、友達同士で教えあうことが多く、母国語の訛りを残したまま練習を続けるなど、適切な発音を身に着けるには限界があった。
これらの課題を解決するために粂内教諭は、スピーチ指導に音読アプリを利用することを考えるようになり、また、同時に辞書アプリについても検討したという。そのような折、音読アプリと辞書アプリの両方を扱っているEAST EDUCATIONの存在を知ることとなる。ICTの導入にあたり、学校にとっては指導内容との適合性はもちろん、運用管理の容易さ[教員への負担の少なさ]も重要な評価軸となる。
指導内容との適合性に関しては、同教諭は「生徒が英文を自由に入力して練習できる点が、我々のニーズに合致した」と話す。また、運用管理の容易さについては、アカウント管理を共通化できるメリットを確認できたという。
事前評価を行なった上で、まずはスピーチ発表会を控えている高校3年生を中心に利用が始まった。
発音判定や辞書連携を用いて、主体的にスピーチ練習に取り組む
Qulmeeを利用するにあたり、プラットフォームとしてスマートフォンを選択した。スマートフォンであれば、すき間時間でいつでも利用できる。授業中はもちろん、自宅でも使用するなど、ICTツールとしてQulmeeを効果的に活用していたという。
生徒はQulmeeにある「自己学習機能」で、発音を確認しながら、原稿を覚えられるよう繰り返し音読した。「自己学習機能」ではQulmeeの自動読み上げ機能を用いて、入力したテキストを音声として再生することができる。スラッシュを入れて、意味のかたまりごとに間を空けて練習することも可能だ。
(左)自己学習の画面。録音を教師に提出し、評価を依頼することも可能。
(右)発音判定の画面。単語単位、文単位の判定が可能。
実際に利用した生徒に、練習方法についてアンケートを取ったところ「音声の再生速度を変えられるので、最初はゆっくり練習して、徐々に速度を上げて読むようにした」「発音判定機能で、100点を取れるまで発音にこだわって練習した」という意見が上がった。
「Qulmeeを利用してから、発音への意識は向上したか?」という質問に対しては、約8割の生徒が「そう思う」と回答した。「先生に聞くことなく、正しい発音を知ることができた」という意見があった。スペイン語を中心に、母国語から来る「訛り」がある生徒もいたが、Qulmeeのニュートラルな音声が発音を正してくれたという。
また、同校ではDONGRIの「ウィズダム英和・和英辞典」「コウビルド英英辞典(Learner’s)」を採用。Qulmee上で調べたい単語があれば、「辞書連携機能」でDONGRIでの辞書引きが可能だ。発音だけでなく、英語の意味を理解したうえで音読練習を進めることができる。
Qulmeeを導入し、統一的な指導が可能に
Qulmeeを導入してから、教員の指導面ではどのような変化があっただろうか。
橋谷教諭は「共通のツールが導入されたことで、全員で同じ取り組みができるようになった。音読ツールというフレームワークを導入したことで、何をやるべきかが明確になり、これまで消極的だった子も、自主的に練習に取り組めるようになった」と話す。
また、「原稿作成から音読練習へ」という指導の流れの中で、音読練習をQulmeeの「自己学習機能」で行なったことにより、原稿作成の時間を多く確保できたという。音読練習の時間を短縮できた分、原稿の完成度を高めることができたのだ。同教諭は次のように話す。
従来は『そろそろ原稿作成を終わらせて、スピーチの練習を始めないと間に合わない』という意識があった。しかしQulmee導入後は、音読練習を生徒一人で進められるようになったので、教員は原稿作成の相談にギリギリまで乗ることができた。“内容をより良いものにしたい”という生徒の気持ちを尊重できた。
また、QulmeeはWebアプリであるため、生徒が作成したスピーチ原稿はクラウド上に保存される。そのため、原稿を紛失する心配がなくなったと粂内教諭は話す。また、「スマートフォンを利用することで、急に授業時間が空いたときに、スピーチの練習にすぐに取り組むことができた」という。
「スピーチの経験が自信に繋がった」大舞台を終えた生徒の姿
スピーチ発表会では、「国際文化」「自分の好きな本」「ファッション」などテーマは多岐に渡り、約500 wordsに及ぶ内容を、堂々とした立ち振る舞いで発表した。ただ原稿を暗唱するだけではなく、身振り手振りを交えたり、予定していなかった表現をその場で加えるなど、英語を自分のことばにして伝える姿が印象的だった。
終了後、本番直後の生徒にインタビューを行った。発表者と決まった時は不安だったが、「沢山練習して内容を頭に入れ、本番では自分のメッセージを伝えたいという気持ちが強かった」「スピーチ発表会を経て、英語に自信が持てるようになり、成長できた」と話す。堂々と話すその姿は、当初の不安など一つもなく、自信に満ち溢れた様子だった。
筆者は、インタビューに答えた生徒のスピーチの中から、以下の一節を思い出した。
Just give it a try. It doesn’t matter if you got talent. Don’t be afraid to find what you really want to do.
果敢に挑戦する生徒たちの姿がこの言葉と重なった。
高校生活の集大成として開催されるスピーチ発表会。国籍に関係なく、生徒同士が励ましあいながら取り組んでいる姿が印象的だった。同校では今後も、生徒らが主体的に英語を学習できるツールとして、Qulmeeを活用していく意向だ。