北陸大学は、石川県金沢市に位置し、国際コミュニケーション学部、経済経営学部、医療保健学部、薬学部の4学部6学科から構成されている。2023年、国際コミュニケーション学部国際コミュニケーション学科の1~4学年において、辞書アプリDONGRIを導入した。DONGRIが大学で導入されたのは同校が初となる。
「THE日本大学ランキング2023」の国際性部門で7年連続北陸私学No.1にランキングしている北陸大学。実践的な英語教育で、“使える英語力”の育成を目指している。では、その中でDONGRIはどのように活用されているのだろうか。今回、1・2年次のReading/Listening科目を担当する吉田明代准教授、林聖太講師、川村拓也助教に話を伺った。また、DONGRIを実際に利用している学生4名、DONGRIの導入を支援した学科長へのインタビューも行った。
平等に有用な学習ツールを提供するためにDONGRIを導入
国際コミュニケーション学科ではDONGRI導入前、国際コミュニケーション学科全体で、英語のe-learning教材を導入していた。ただ、授業の内容と連動させづらく学生全員が真面目に取り組んでいるかが不明瞭であったり、課題の数をこなすことが目的となってしまったりするなど、いくつかの課題があった。
学習を支援するための共通教材として何が最適かを考えたときに、「辞書」であれば、授業内の活動や課題にも取り入れやすく、使い方を理解できれば、大学卒業後の語学学習にも役立つはずだと考え、辞書アプリDONGRIの導入に至った。
ことばを調べるツールはさまざまある中で、DONGRIを統一して使わせたいと考えた理由として、吉田明代准教授は「辞書の信頼性の高さ」を挙げていた。「言葉を深く掘り下げるには出版社から出ている辞書が学習にはいいと考えています。専門家の方が知恵を集めて作っているものを使わせたい。Webだと他の誘惑に引っ張られることもあるので、アプリをインストールして使わせたいという想いがありました」。
吉田明代准教授
DONGRIではiOS版、Android版、Windows版のネイティブアプリを利用できる。そのため、学生ごとに異なるデバイスを使用している当校にとって適した形だったといえる。
また、DONGRIのダッシュボード機能により、教員や学生のライセンス管理、辞書の利用状況が可視化される点も、学科内で一括導入するうえでの利点になったようだ。
今年度は、国際コミュニケーション学科の中で、ジーニアス英和・和英辞典、コウビルド英英辞典(Advanced 米語版)、ロイヤル英文法を利用している。特に英英辞典は、英和辞典・和英辞典と同程度に利用頻度が高いようだ。
「英語が得意な生徒にはぜひ使っていこうと勧めています。『この英単語にはこの日本語』のような1対1の覚え方では、その間にある深い意味を無視して線で結ばれてしまうので、勿体ないと思っています。英語での説明の方が捉えやすい言葉もなかにはあるので、英和辞典と両方使えるようになってほしいと思い、採用しました」と話す。
大学でのDONGRIの活用法とは
では、DONGRIは学内でどのように使われているのだろうか。今回、林聖太講師のListeningの授業を見学させてもらった。
学生は、個人のスマートフォンにDONGRIをインストールして利用している。 Listeningの授業中、先生から英単語の意味について問われた時、分からなければ学生各自で辞書を引き、先生の問いに答えていた。先生は、必要に応じて教室のモニターにDONGRIを映し、重要なポイントを伝えるシーンもあった。
林講師は、授業中はもちろん、授業外でも意味調べを課題として出すが、調べるべき単語は指定せず、学生に任せているという。「読解に必要な単語があれば調べる」という方針で、学生が自主的に学べるよう心がけているそうだ。
スマートフォンで辞書を引くことについて、川村拓也助教は以下のようにコメントした。
先生によっては、学習中に他のアプリを開いてしまうなど、スマートフォンの利用についてネガティブな部分を見る人もいると思います。ただ、スマートフォンですべて完結する時代になっているのは事実なので、誘惑があるコンテンツに誘導されずに、切り替えて利用していく力も、今の学生は養うべきなのかなと思っています。
川村助教は、授業で辞書を利用する際、意味を理解するまでの過程を示すようにしている。 例えば、causeという単語は、主に「原因」「~を引き起こす」といった対訳があるが、当時扱っていた文章では、代表的ではない「主張」「運動」という意味で登場したそうだ。
「ただ単に辞書を開くだけでは、なかなか適当な意味に辿り着けません。辞書を引く前に品詞を確認させ、文脈を理解したうえで辞書を引き、訳を考えさせるようにしています」と話す川村助教。 辞書を使って、単語が持つ複数の意味から最適な訳を選択するトレーニングは重要だと話す。
川村拓也助教
第一語義ではない意味の英単語が出てきた際、吉田准教授はDONGRIの「URLコピー機能」で、学生に読むべきページを共有しているそうだ。
Web版のDONGRIでは、語句のページ1つ1つに異なるURLが存在する。そのため、語句のURLをMicrosoft Teams等で学生に共有することで、学生はすぐに該当ページを開くことが可能だ。辞書の一部分を強調して伝えることはなかなか難しいが、Teamsでの共有は、辞書アプリという特性だからこそできる活用法なのではないだろうか。
読むべき語義の番号を指定し、DONGRIのURLをTeamsで共有
Web検索や翻訳ではなく、DONGRIを使う理由
次に、国際コミュニケーション学科の学生4名に、DONGRIの使いどころについて聞くと、日頃から活用しているからこその率直な意見を聞くことができた。
澁谷百音さんは、DONGRIの「履歴」を活用することが多いそうだ。「いろんな言葉を次々と調べていくと、『さっき引いた単語をもう一度読み返したい』と思う時があります。過去に調べた語句は自然と『タブ』や『履歴』に残っているので、後で時間がある時に見返すことができます。無意識のうちに履歴が残っているということが安心感につながり、余裕を持って勉強できるようになりました」と話す。
蔦和奏さんは、語句の説明を再び見返す際にDONGRIの「しおり」を活用しているという。asやsuchなど、場面に応じて意味が変わる語句は何回もページを開くため、しおりを登録することで、効率よく情報に辿り着けるという。
DONGRIのしおり機能。「タグ」でしおりをカテゴリ別に分類することも可能
廣田滴さんは、スマートフォンで辞書を使える利便性について話してくれた。「高校の時は紙辞書や電子辞書を使っていましたが、スマートフォンに入っているので、荷物がコンパクトになりました。スマートフォンであれば文字の入力も慣れているので、調べたい言葉があればさっと取り出して調べられる点が便利です」
Web検索など、ことばを調べるツールが多く存在する中で、なぜ彼女らは辞書を選択するのだろう。入江恋々茄さんは、辞書を引く理由について以下のように話した。
翻訳ツールは即座に答えが分かるというメリットはありますが、日本語の直訳であったり、前後関係なしの英文が出てきたりするため、その英文がどういう成り立ちなのかあまり理解せず『この日本語にはこの英語なんだ』と、表面的に理解してしまうことがあります。
辞書では、複数の意味や例文、類義語を一緒に調べられます。表現を検討しているうちに、『本当はこういう意味も含めたかったんだよな』と、自分が日本語をどう訳したかったのかを、省みることがあります。自分の伝えたい日本語の意味と英語をなるべく近づけるために、辞書で語義を確かめたいと思い、日々辞書を利用しています。
「英語をコミュニケーションのツールとして使いたい」
4名の学生に共通していたのは、「英語を実際のコミュニケーションの場で使いたい」という想いだった。
廣田さんは、「アルバイトで海外のお客さんと接したときに、自分の英語が拙くても、笑顔を返してくれた。北陸大学に来て、人と話すのがもっと好きになったので、英語や中国語など言語を学んで、コミュニケーションの幅を広げたいと思って勉強しています」と話す。
入江さんは辞書を使うようになってから、日本語と英語の間には、直訳できない意味が含まれていることを実感したようだ。今後は「好きな洋楽や映画を、自分の力で理解したいです。さまざまな表現方法がある中で、なぜその言葉が選ばれたのか。また、複数ある言葉の中で、どの表現が適切かを考えることは、自分が考えを発信する立場になった時にも役立つと思います」と話した。
最後に、北陸大学国際コミュニケーション学部、国際コミュニケーション学科の田中康友学科長に「本学科の学生に、どのような人間に育ってほしいか」をうかがった。
本学科の学生には、世界に打って出るグローバル人材に育ってほしいと考えています。世界の人々と交流をもてばさまざまなチャンスが広がっていくので、日本の中だけで完結することなく、世界を視野に入れて活躍してほしいと願っています。
学科内で統一したカリキュラムを実施し、「使える英語力」の育成を目指す北陸大学。学生たちのことばからも、定期試験や資格のための勉強ではなく、実際のコミュニケーションで英語を使いたいという想いが強く伝わってきた。辞書アプリDONGRIでさまざまな表現と出会い、語彙を広げ、自分のことばを伝えるツールとして今後も活用してほしいと思う。