【辞書コラム㉝】辞書の使い方

DONGRIに和英辞典を追加してみよう

#中級

DONGRIに和英辞典を追加してみよう

2024年度から、実用英語技能検定試験(英検)の問題形式がリニューアルされ、記述英作文の問題数が増えるという発表がありました(詳細は日本英語検定協会のサイトをご覧ください)。

機械翻訳や生成系AIの普及により、ネット上のツールで気軽に和文英訳や英作文ができるようになったためか、私の授業でも明らかに機械翻訳を使ったと思われる英作文を提出する学生は珍しくありません。もちろん、試験では通信機器は使えませんので、英語を書く力を身につけるには、ふだんから辞書を頼りに自力でたくさん英語を書いてみることが大切であることは、昔も今も変わりません。

23回目から25回目のコラムで、和英辞典の使い方をお話ししました。DONGRIの辞書コンテンツの多くは英和辞典と和英辞典がセットになっていますので、すでに和英辞典を使い慣れている人も多いと思います。一方で、和英辞典には、英和辞典以上に辞書ごとの得意分野や個性がありますので、英検の記述英作文対策や、英語スピーチコンテストの原稿を書くときなどは、26回目のコラムでとりあげた「2冊目の英和辞典」と同じように「2冊目の和英辞典」を追加購入してみることをおすすめします。

今までの和英辞典の使い方に関するコラムでは『ジーニアス和英辞典』を中心にとりあげましたので、今回は、それ以外の和英辞典でDONGRIにラインナップされている辞書を紹介します。まだ和英辞典を使ったことがない人だけでなく、すでに英和と和英をセットでインストールしている皆さんは2冊目の和英辞典として、皆さんの目的に合った辞書を見つけてください。

「和英索引」を卒業して「和英辞典」を使ってみよう

DONGRIの辞書ラインナップの中には、英和辞典と和英辞典がペアになっていないものもあります。26回目のコラムで紹介した『ベーシックジーニアス英和辞典』『エースクラウン英和辞典』『コアレックス英和辞典』『グランドセンチュリー英和辞典』等がその例です。これらの英和辞典には和英索引(和英インデックス、和英小辞典など、辞書によって名前は違います)がついていますので、英和辞典だけでも和英辞典のように使うことができます。皆さんの中にも、和英索引を使って英作文の問題練習などをしている人は多いのではないでしょうか。

和英索引は、たとえて言うなら、登山道にある「道しるべ」のようなものです。山頂へ向かう大まかな方向は示してくれますが、道しるべだけに頼って山登りをするのは危険ですので、登山をするときは、地図で自分の場所を確認したり、体力に合わせた難易度の登山道を選んだり、天気予報を確認して遭難を防ぐといった手間をかける必要がありますね。

和英索引は、「この日本語を英語で何と言うか」を手っ取り早く調べたいときには便利ですが、用例や解説も詳しく出ている通常の和英辞典と違い、英語訳が載っているだけなので、24回目のコラムでもふれたように英和辞典にその都度ジャンプして使い方などを確認する必要があります。英語を書く機会が増え、資格試験対策のように数十語~数百語といったまとまった英文を書こうとするのであれば、和英索引と英和辞典を行ったり来たりするのは大変ですから、この機会に和英辞典を追加購入し、すでに使っている英和辞典と合わせて使いこなしてみましょう。

DONGRIの英語辞書の多くは英和辞典と和英辞典がセットになっていますが、和英辞典だけを追加購入することもできます。

追加購入の詳細はこちらこちら

コラムが豊富な『オーレックス和英辞典』

日本のことを説明できる「日本紹介」

『オーレックス和英辞典』(旺文社)は、様々なコラムを収録し、拾い読みするだけでも楽しい和英辞典です。とくに、日本文化に根ざした語を詳しく説明した「日本紹介」は、ホームステイなどで日本のことを英語母語話者に説明したりするときに役立ちます。

『オーレックス和英辞典』で「おせち料理」を引いてみましょう。
多くの和英辞典では、英語母語話者にとってなじみのないものには説明的な訳をつけていますが、『オーレックス和英辞典』ではさらに「日本紹介」として次のようにより詳しく説明しています。

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おせち料理は単なる「新年のお祝いの料理」ではなく、特別な容器に入れて出される(見た目も重視される)ことや、それぞれの食材に新しい年の幸運や健康を願う特別な意味を持たせていること、最近では既製品も増えていることなどが分かりますね。

英語母語話者はどう感じるかを調査した「Planet Board」

22回目のコラムでとりあげた『オーレックス英和辞典』のユニークなコラムである、英語母語話者100人へのアンケート調査を元にしたPlanet Boardも、日本語と英語の文化の違いに関する内容を中心にしたものが収録されています。

『オーレックス和英辞典』で「嘘」を引いてみましょう。

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「嘘」はlieなので、「嘘をついているね」は、”You are telling a lie.”と言うのではではないかと思った人もいると思います。

PB (Planet Board)へのリンクをタップしてみてください。日本では、相手を傷つけないためにあえて嘘をつくということもありますが、英語ではlieを使うとその人の人格を否定しかねない強い響きがあるので、「冗談でしょう」のように表現することがわかりますね。

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大学入試レベルの自由英作文にも対応する『ウィズダム和英辞典』

英作文の「お手本」を示した「Composition」

『ウィズダム和英辞典』(三省堂)は、まとまった英文を書くためのCompositionというコラムが特徴です。「やり遂げる」を引いてみましょう。

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高校時代にやり遂げたことに関して約100語でまとめた英作文のモデルが出ています。英語を専門とする学科の入試の中での自由英作文や自己アピール文などでよく出されるテーマですが、実際の試験で求められるようなまとまった分量での「お手本」を見ることができるので、単語を入れ替えたり、文を付け加えたりして自分自身のことを英語で表現する練習ができます。

自分自身のことを表現するだけでなく、英検の記述英作文でよく出されるような社会的、時事的な話題について、自分の立場(賛成か反対か)を明確にして意見を述べるような形式にも対応しています。

「携帯」を引いてみましょう。「小学生が携帯電話を持つべきか」というトピックについて、賛成、反対の両方の立場での作文例を見ることができます。

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英語が苦手な皆さんは、お手本があるとはいえ自分のことばで書き直すことは難しいと感じるかもしれません。まず、ここに出ている作文例をそのまま暗唱してショートプレゼンテーションをしてみてはいかがでしょうか。英作文で100語の英文を書くのはかなり長く、苦痛に感じるかもしれませんが、口に出してみると思ったよりも短いと感じるのではないでしょうか。まずお手本通りに口に出してみて、入試や資格試験で求められる分量の英文に慣れてきたら、自分なりにアレンジして英語を書き、それを口に出してみるといいでしょう。そうすることで、英語を書くときだけでなく、話すときにも和英辞典を活用することができます。

似たような意味の単語の使い分けを2段階で説明した「Word Choice」と「使い分け」

『ウィズダム和英辞典』では、似たような意味の単語のニュアンスの違いをWord Choice、使い分けという2つのコラムで詳しく説明しているのも大きな特徴です。 最近の和英辞典は、訳語のニュアンスの違いをことばで説明するよりも例文をたくさん載せることで自然と理解させるタイプの辞書が増えていますが、『ウィズダム和英辞典』では、日本語で書かれた詳しい説明を読むことで自信を持って英語を使うことができるようになります。

『ウィズダム和英辞典』で「おいしい」を引いてみてください。

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いずれも「デリシャス」「テイスティ」のようにカタカナ語でもよく使われるので、どちらでも同じような意味だと思ったかもしれませんが、WORD CHOICEの説明を読めば、very deliciousのようには言わないことや、スイーツなどの甘い料理にはtastyを使わないということが分かります。

索引モードを使ってコラムだけを拾い読みしてみよう

今紹介したようなコラムは、紙の辞書と同じように該当する単語を引くと出てくるだけでなく、DONGRIではコラム索引のページで一覧することもできます。時間のあるときにコラムだけを読んでみると日本語と英語の違いがよくわかるようになります。

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和英辞典は「引く」よりも「読む」もの

英語を読むことは何とかなっても、書くことは苦手だという皆さんも多いと思います。つい機械翻訳や生成系AIに頼ってしまう人もいるかもしれませんが、機械翻訳が訳した英文は人間が書いたものではないため、ALTの先生などにチェックしてもらおうと思っても、英語母語話者でさえ意味がよくわからない文章になってしまうこともあります。

日本人が書いた英語を見慣れている英語の先生は「辞書で調べてもいいからと伝え、自力で書かせた英文のほうが、何が言いたいかがわかりやすいので、添削しやすい」と口を揃えて言います。和英辞典は、英和辞典よりもコラムや付録が充実していますので、「引く」だけでなく時間をかけて「読む」ようにすると、皆さんらしい英語を書くことができるようになり、国公立大学の独自入試や英語を専門とする難関私大の自由英作文でも通用するライティングの力をつけることができます。

この記事の執筆者

関山健治(せきやま けんじ)先生写真

中部大学 准教授

関山健治先生

沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007年、小学館)、『英語のしくみ』(2009年、白水社)、『日本語から考える!英語の表現』(共著、2011年、白水社)、『英語辞書マイスターへの道』(2017年、ひつじ書房)などがある。

執筆・校閲者として『ウィズダム英和辞典(第3版)』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典(第5版)』(小学館)、編集委員として『ベーシックジーニアス英和辞典(第2版)』などを担当。

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