中部大学 准教授
関山健治先生
沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。
【辞書コラム㉓】辞書の使い方
#初級
DONGRIを使っている皆さんの多くは、英和辞典とセットで和英辞典もインストールしていると思います。ふだんの授業では、教科書の英文を予習したり、入試問題に出てきた知らない単語の意味を調べるため、英和辞典を頻繁に引く人が多いのではないでしょうか。英和辞典は、主に受信(英語を読んだり聞いたりする)のために使う辞書ですが、逆に、和英辞典は英語を書いたり、話したりするときに役立つ発信用の辞書と言えます。
皆さんの中には、ライティングやスピーキングは大学入試でも出題されることが少ないので、勉強する余裕がないと考える人もいるかもしれません。一方、2022年度から始まった新しい学習指導要領では、高校の英語科に「論理・表現」という科目が新設され、英語でディスカッション(議論)をし、その内容を英語を使ってまとめ、英語でプレゼンテーション(発表)をするという、発信を重視した内容になっています。これからは、語学留学をしたり、スピーチコンテストに出場したりといったごく一部の学生、生徒だけでなく、資格試験や入試でも英語を発信する力が今まで以上に求められるようになってくることでしょう。
和英辞典を使いこなすことで、英語を書くときはもちろん、英語を話すときにも役立つ英語の力を身につけることができます。今回は、DONGRIを使って和英辞典を引きこなす基本的な方法についてお話ししたいと思います。
英和辞典は、英単語から日本語の意味(和訳)を調べる(日本語では何と言うかを調べる)辞書ですが、和英辞典は、逆に日本語の単語から英語の表現(英訳)を調べる辞書であることは、皆さんも知っていると思います。しかし、和英辞典は単に英和辞典を「ひっくり返した」だけの辞書ではありませんので、英和辞典と同じような感覚で和英辞典を引いたために、うまく引けなかったという経験をした人もいるかもしれません。
英和辞典なら、知らない英単語をそのまま入力すれば訳が出てくることが多いのですが、和英辞典を引くときにはちょっとしたコツが必要になります。今回は基本編として、4つのうちの2つのポイントについてお話しします。
「動詞を引いてみよう① 」でもお話ししたように、英和辞典をはじめ、ほとんどの辞書を引くときは原形で引く必要があります。日本語の辞書(国語辞典)も同じです。たとえば、「日常的」という語を引いて、出ていない場合は「日常」で引き直さないといけません。和英辞典も日本語から引く辞書ですから、国語辞典と同じように、引いた単語が出ていない場合は原形で引いてみるようにしましょう。
たとえば、「私はこの辞書を日常的に使っています」を英語にしてみましょう。 『ジーニアス和英辞典』を使っている人は「日常的」が見出し語として出ていますので、そのまま「日常的」を引くと「インターネットを日常的に利用する」という用例が出ています。「インターネット」を「辞書」に変えてI use this dictionary every day.(または、I use this dictionary on a daily basis.)のように言えるということが分かります。
一方、『ウィズダム和英辞典』や『オーレックス和英辞典』では「日常的」で引いても出ていません。この場合、「日常」という原形にして引き直す必要があります。たとえば、『オーレックス和英辞典』で「日常」を引いてみると、
「今は日常のささいなことに幸せを感じる毎日です」(I now enjoy small things that happen in my daily life.)(オーレックス和英辞典)という用例が出ています。「日常の」は「日常的な」に言いかえることもできますので、I use this dictionary in my daily life.のように言えるのではないか、ということがわかります。
皆さんの中には、英訳を知りたい日本語をそのまま和英辞典で検索し、出ていなければ、この辞書には載っていないと早合点して、翻訳アプリなどに安易に頼ってしまう人もいるかもしれません。DONGRIにラインナップされている和英辞典は、高校生向けのものであれば皆さんが一般的なテーマで英語を書いたり、話したりするときに必要な語のほとんどは収録されていますので、あきらめないでください。もし、原形で引いても出ていない場合は、次の「ポイント2」で説明するように、別の(より易しい)日本語を考えて引いてみましょう。
和英辞典を使って書いた英文は、ともすれば日常会話や作文ではあまり使われないような、改まったニュアンスの文になることがあります。そのせいもあってか、私が高校生だった頃は、和英辞典に頼らないで、自分が知っている単語を使って自力で英語を書くようにしなさいとよく言われました。
これは、和英辞典が悪いのではなく、もとの日本語が堅すぎるため、その日本語と同じようなニュアンスの背伸びした英語が出てきてしまうことが原因です。たとえば、「昨日、新しいノートを購入しました」と言いたい場合、『ジーニアス和英辞典』で「購入する」を引くとpurchaseが最初に出てきます。
「新しい家具を購入する purchase a new piece of furniture」という用例を参考に、”I purchased a notebook yesterday.”のようにしても「正しい英語」ではありますが、友達と遊びに行くときにスーツを着ていくようなもので、「自然な英語」とは言えない表現になってしまいます。
このようなときは、和英辞典を引く前により易しい日本語に言いかえるといいでしょう。「購入する」は「買う」と同じ意味だと考えて、「買う」を『ジーニアス和英辞典』で引くと、
「書籍をインターネットで買う buy a book online」のようにbuyを使った用例が出てきます。
この用例を参考に、I bought a notebook yesterday.のようにすれば、より皆さんらしい自然な英語で表現することができます。
和英辞典の中には、出ている英訳語がどのようなニュアンスの語かを示している辞書もあります。たとえば、『ジーニアス和英辞典』で「購入する」を引くと、
のように、purchaseには「正式」というラベルがついています。これは、purchaseは「フォーマルな(改まった)語」という意味で、たとえて言うならスーツにネクタイを締めた場面で使うような語と言えます。
このように、和英辞典を引くときは、出てきた単語をそのまま使うのでなく、英和辞典を引くとき以上に時間をかける必要があります。翻訳アプリなどにくらべれば面倒だと感じる人もいるかもしれませんが、DONGRIにラインナップされているような最近の和英辞典は用例が豊富で、辞書の引き方に慣れていない人でも自然な英文を書くことができるようになっています。
次回は、和英辞典の使い方の応用編として、DONGRIならではの機能を使いながら、和英辞典で引いた単語を英和辞典で引き直したり、和英辞典の用例をフル活用する方法をお話ししたいと思います。
中部大学 准教授
関山健治先生
沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。
著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007年、小学館)、『英語のしくみ』(2009年、白水社)、『日本語から考える!英語の表現』(共著、2011年、白水社)、『英語辞書マイスターへの道』(2017年、ひつじ書房)などがある。
執筆・校閲者として『ウィズダム英和辞典(第3版)』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典(第5版)』(小学館)、編集委員として『ベーシックジーニアス英和辞典(第2版)』などを担当。