【辞書コラム㉒】辞書の使い方

「ふだん使いの英和辞典」として、2冊目の英和辞典を使ってみよう

#初級

サムネイル画像:「ふだん使いの英和辞典」として、2冊目の英和辞典を使ってみよう

前回は、高校生向け辞書の定番である『ジーニアス英和辞典』の改訂についてとりあげました。『ジーニアス英和辞典』はもちろん、DONGRIのラインナップにも含まれている『ウィズダム英和辞典』『オーレックス英和辞典』などは、高校の授業の予復習や受験勉強はもちろん、大学生や社会人になってからも使える詳しい辞書ですので、英語の辞書はこれ1冊で十分、と思う人も多いのではないでしょうか。

「詳しい辞書」の光と影

一方、高校の教科書や、大学入学共通テストをはじめとした一般的なレベルの入試問題の英文を読むときには、情報量が多すぎて必要な情報を見つけにくいと感じるかもしれません。
先日、『ジーニアス英和辞典』(以下G6)を引いていた学生から、「baggageとluggageの基本的な違いは何ですか?」「baggageは数えられない名詞なのに、なぜ[U]がついていないのですか?」という質問がありました。G6でbaggageを引くと、以下のように出ています。

baggageをG6で引く

質問をした学生は高校生の頃からジーニアスを使っているパワーユーザーで、英検2級に満点近くで合格し、TOEICは700点以上のスコアを持っていますが、かなり英語力のある大学生が使い慣れた辞書を引いても、詳しすぎて必要な情報を得るのに時間がかかってしまうことは珍しくありません。皆さんの中にも、中学や高校の授業で使っているタブレットでDONGRIを使っている人は多いと思いますが、収録されている辞書が難しすぎると感じる人もいるのではないでしょうか。
DONGRIは、あらかじめ学校が一括導入した辞書に加え、個人で好きな辞書を一般販売ページで追加購入できます※。野球部の生徒が自分に合ったグラブやバットを選ぶのと同じで、英語を学ぶ皆さんも、今使っている辞書が難しいと感じたら、より易しめの辞書を追加してみてはいかがでしょうか。


追加購入に関する詳細はこちら

辞書は「大は小を兼ねない」

それでは、2022年9月にDONGRIのラインナップに加わった『コアレックス英和辞典(第3版)』(以下C3)を使ってみましょう。

C3は中級レベルの英和辞典で、収録語数が上級レベルの辞書であるG6よりも3万語程度少なくなっています。今まで使っていた辞書よりも収録語句が少ない辞書を使うのは不安に感じる人もいるかもしれませんが、高校生向けの辞書であれば、第10回目のコラムでもふれたように高校の日常学習はもちろん、大学入学共通テストを含めた大学入試にも十分対応できます。

収録語数が少なめの辞書は、空いたスペースを活用して高校生の英語学習に役立つコラムを増やすなど、他の辞書にない情報を豊富に収録しています。スマホのメモリー容量や画面のサイズなどと違い、辞書は「大は小を兼ねない」のです。

C3には、G6をはじめとした上級レベルの英和辞典に収録されていない様々な情報も収録されています。そのいくつかを見てみましょう。

英語教員にも役立つPlanet Board

高校の授業で習う表現の中には、日本語訳を頼りに使うと相手に失礼になる言い方もあります。たとえば、相手に何かを教えるとき、日本語では「ご存じかもしれませんが…」のように、すでに相手が知っていることを想定した前置き表現をよく使います。これをそのまま英語にして、As you know… のように言ってしまいがちですが、英語母語話者にはどのように響くのでしょうか?

C3でknowを引き、その中にある成句のas you knowを見てみましょう。

knowをC3で引く

PB22というリンクがありますが、ここをクリックすると、as you knowという表現の適切性を英語母語話者に統計調査した結果が表示され、9割近い英米人が不適切であると感じていることがわかります。

knowのPlanet Board

このように、Planet Boardは、自分の英語が実際に英語を使う場面でどのように響くかを英語母語話者に尋ねた結果をまとめたものであり、文法や単語の知識を超えた、より実践的なコラムです。高校生の皆さんはもちろん、先生方が教材研究をしたり、語学留学の事前指導をする際などにも役立つのではないでしょうか。

誰でも知っている単語を引いてみると…

辞書は、意味のわからない単語を引くためだけのものではありません。C3では、中学校レベルの単語でも意味以外の様々な情報が収録されています。

C3でlunchを引いてみてください。

lunchをC3で引く

lunch(昼食)は数えられない名詞なので、a lunch、 my lunchのように言わないということは知識として知っていても、実際に英語を話すときにはよく間違えます。このように日本人がよく間違える文法はGet it Right!というコラムで説明されています。

C3は、単語の意味や文法事項だけを載せた辞書ではありません。現地へ行かないと気づかないような英語圏の「今」を解説した文化のコラムも類書と比較にならないほど多く収録されています。

lunchにも文化情報が出ています。

lunchの文化のコラム

給食や弁当を食べる日本の高校と違い、アメリカではファーストフードをカフェテリアで食べることは教科書の題材にもとりあげられていますので、留学経験をしていなくても知っている人は多いと思います。

C3のコラムでは、一歩踏み込んで食事の偏りや健康への影響を説明しています。インターネットが普及した今では、居ながらにして英語圏の文化的な情報を豊富に知ることができますが、C3ではネット検索では得られない文化的な情報が豊富に収録されています。

コラムの索引を使うことで辞書を読み物にする

今までお話ししたもの以外にも、C3には豊富なコラムが収録されています。単語の意味を調べるために辞書を引いたときに偶然コラムに出会い、寄り道ができるのも辞書を引く楽しみの一つですが、DONGRIではコラムのある語をまとめた「コラム索引」を使えば、特定のコラムだけをすべて読むこともできます。読み物として辞書をとらえることで、ともすれば無味乾燥になりがちなふだんの英語学習の気分転換にもなることでしょう。

「ふだん使いの辞書」として気軽に使える

これまで、G6をはじめとしたDONGRIの上級向け英和辞典にない、C3ならではの特徴をお話ししてきました。収録語数が少なくても、皆さんが英語に興味を持つような様々な情報が含まれていることに気づいたと思います。

一方で、C3は大学受験レベルを超えるような専門的な情報や、英語を使うときに重要度の低い細かな情報を省き、高校生なら誰もが知っておきたい基本的な説明が見えやすくなっています。

冒頭で例にあげたbaggageのG6の記述を再度以下に載せますので、C3と見比べてみましょう。

G6のbaggage

C3のbaggage

C3はG6よりも簡潔に説明されているので、情報量が少ないことに不安を感じる人がいるかもしれませんが、大学入試はもちろん、資格試験の上位級でも、baggageという語に関してはC3にも出ている以下の2点を知っていれば十分でしょう。

・baggageは数えられない名詞である。
・基本的には、baggageはアメリカ英語、luggageはイギリス英語で使われる。

はじめに紹介した学生もこれらのことは知っていましたが、G6の場合、「アメリカ英語ではluggage の方が高級なイメージがある」「乗客の手荷物はイギリス英語でもbaggageを使う」といった詳細な情報の中から、最も重要な情報をふるい分けることに苦労したようです。逆に言えば、C3の簡潔な記述さえ理解していれば、大学入試や上位レベルの資格試験にも余裕を持って臨めるということです。

今使っている辞書が難しく感じる方はもちろん、先生方をはじめ、上級レベルの英和辞典を使いこなしている方も、「ふだん使いの辞書」として、収録語数の少ない辞書を追加購入してみてはいかがでしょうか。

この記事の執筆者

関山健治(せきやま けんじ)先生写真

中部大学 准教授

関山健治先生

沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007年、小学館)、『英語のしくみ』(2009年、白水社)、『日本語から考える!英語の表現』(共著、2011年、白水社)、『英語辞書マイスターへの道』(2017年、ひつじ書房)などがある。

執筆・校閲者として『ウィズダム英和辞典(第3版)』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典(第5版)』(小学館)、編集委員として『ベーシックジーニアス英和辞典(第2版)』などを担当。

辞書アプリDONGRI
音読トレーナーQulmee

keyboard_arrow_left記事一覧へ戻る