【辞書コラム⑩】辞書の使い方

受験シーズン特別編!英和辞典の重要度ランクと大学入学共通テスト

#中級

動詞を引いてみよう④ 文型表記を使って、入試問題にチャレンジ!

大学入学共通テストが終わりました。英語の問題を見た人も多いと思いますが、センター試験よりも英語を読む量が倍増し、難しいと感じた人も多いのではないでしょうか。とくに受験勉強を始めたばかりの皆さんの中には、これだけの量の英文を限られた時間で読み、問題に答えるには、とにかく単語をたくさん覚えないといけない、と感じてあせっている人もいるかもしれません。

今回は特別編として、ふだん皆さんが使っている英和辞典に載っている単語と、2022年度大学入学共通テスト(本試験)の英語リーディングの問題をデータベース化して分析し、多くの皆さんの関心事である「どのような単語を、どれぐらい知っていればいいのか」ということについて考えてみたいと思います。高校生の皆さんだけでなく、英語を教える先生方も「どれぐらい単語を覚えればいいですか」という受験生からの質問に、自信をもって答えることができるようになればと思います。

単語の「数」と「種類」

共通テストでは、長文問題が増えたために難しいと感じる受験生も多いようです。予備校などの分析では、選択肢や指示文を除いた総語数が4000語程度だとされていますので、単語の「数」だけ見てとても歯が立たないと感じる人も多いのではないでしょうか。英文の総語数はワープロソフトなどで簡単に出せますので、その数字だけが一人歩きして、共通テストの英語は難しいというイメージを持たれやすいのかもしれません。

一方、使われている単語の「種類」はどうでしょうか。今回、私が研究用に使っている英文分析ソフトを使い、共通テストの英文素材(選択肢や指示文を除きます)で使われている単語の一覧を出してみました。前置詞やbe動詞などの基本的な動詞、冠詞などは何回も出てきますので総語数は多くなりますが、使われている単語の種類は、私の調査では1008(種類の)語になりました。思ったより少ないですね(※ 変化形はまとめて1語とカウントしています。たとえば、playは、 plays playing playedなどを含めて1語としています)。

共通テストの英文は、英語母語話者が読むような生の英語をそのまま使うのではなく、使われる単語の種類やレベルをコントロールしていますので、闇雲にたくさんの単語を覚えるよりも、中学や高校の授業で学ぶような基本的な単語をしっかり身につけることが必要になります。

辞書の重要度ランク別の出現語数

では、実際にどのような単語を知っていると大学受験に役立つのでしょうか。今述べた、今年度の共通テストの英文に出てきた1008語を『ジーニアス英和辞典(第5版)』(以下G5)と『ベーシックジーニアス英和辞典(第2版)』(以下BG2)の重要度ランク(星印)別のリストと照合し、グラフにしてみました。

このグラフは、G5BG2のそれぞれの辞書の重要度ランクごとに、共通テストの英文に出てきた単語の何%が含まれているかを示したものです。たとえば、BG2(赤線)の****の語(Aランクの語)では51.6%となっていますが、これは、BG2でもっとも重要度の高いAランクの語には、共通テストの英文に出た1008種類の語のうち51.6%(520語)が含まれているということです。Aランクの語に加え、***Bランク)の語も含めると、76.2%(768語)となります。同様に、**Cランク)の語まで含めると83.7%、*Dランク)の語も入れると86.9%…のようになります。G5(黄線)も同様です。

「【辞書コラム①】覚えた方がよい単語かどうかを見極める「重要度表記」」に出ている重要度ランクの内訳と対照してみると、BG2の場合、「小中学校で身につけたい語」であるAランクの語(約1200語)を知っているだけで、共通テストの英文に出てくる語の半分以上(51.6%)がカバーできるということになります。G5の場合は、もっとも重要度の高い***(中学学習語)である約1150語を覚えれば、53.1%の語が含まれます。

中学校までに学習する単語だけ知っていれば、共通テストに出てくる語の半分がカバーできるというのは意外かもしれませんが、専門的な論文や教養のある英語母語話者を対象にした英字新聞、ニュース週刊誌などと違い、共通テストをはじめとした多くの入試問題での基本的な単語の重要性がおわかりいただけると思います。

長文問題の場合、未知語が出てきても前後の文脈から意味が推測できることも多いので、カバー率が80%程度を超えれば十分高得点をめざすことができます。グラフを見ると明らかですが、BG2の場合、「高校卒業までに身につけたい語」である**Cランク)以上の語(G5の場合は「高校学習語」)を身につければ、カバー率が80%を超えます。語数としては4200-4300語程度になりますが、そのうちの1000数百語はすでに中学校までに学んだ単語ですので、高校では1年間に1000語程度(コミュニケーション英語の教科書の新出単語数に相当します)身につけるようにすれば、共通テストにも余裕を持って臨むことができます。

自分のレベルにあった辞書で、基本を大切に学ぼう

高校生向けの英和辞典には様々な種類があり、BG2のように中学上級生から使える初級者向けの辞書もあれば、G5をはじめ、英語教員が日常的に使っているような情報量の多い辞書もあります。授業の予復習ならともかく、受験勉強には上級レベルの辞書でないと歯が立たないと思う人もいるかもしれませんが、カバー率が80%程度である**Cランク)であれば、グラフを見ても明らかですが、BG2G5の差はほとんどありません。

より下位のランクになるとG5BG2の差が徐々に開いていきますが、たとえ辞書に出ているすべての語(G5の場合は約90000語)を知っていたとしても、共通テストに出てくる語を完全にカバーすることはできません。特殊な人名や地名はもちろん、今年度の共通テストで多く見られた日本語由来の語(流しそうめん、たこ焼き等)やリサイクルに関する専門用語など、専門家向けの辞書にも出ていない単語が少なからずあるからです。

どんな英文でも、8割程度の単語が分かれば十分理解できると割り切り、高校1年生のうちから自分のレベルにあった辞書を使い込んで基本的な単語を中心に丁寧に学習することをおすすめします。

この記事の執筆者

関山健治(せきやま けんじ)先生写真

中部大学 准教授

関山健治先生

沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007年、小学館)、『英語のしくみ』(2009年、白水社)、『日本語から考える!英語の表現』(共著、2011年、白水社)、『英語辞書マイスターへの道』(2017年、ひつじ書房)などがある。

執筆・校閲者として『ウィズダム英和辞典(第3版)』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典(第5版)』(小学館)、編集委員として『ベーシックジーニアス英和辞典(第2版)』などを担当。

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