【辞書コラム㉑】最新の辞書の魅力

新しい『ジーニアス英和辞典(第6版)』の魅力:第5版とどこが変わったのか?

#初級

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DONGRIでは、小学生向けから高校生向けまで、様々な英和辞典を使うことができますが、高校生の皆さんは『ジーニアス英和辞典』を使っている人も多いと思います。『ジーニアス英和辞典』は、私が高校生だった1987(昭和62)年に初版が刊行され、以降5~8年ごとに改訂されていますので、昭和、平成、令和の3時代を駆け抜けてきた数少ない高校生向け辞書の一つです。

DONGRIの辞書ラインナップには、2014年に改訂された第5版(以下G5)が入っていましたが、2022年11月に8年ぶりの改訂版である第6版(以下G6)が刊行されました。

G5を使っている人はG6も使える!

DONGRIはサブスクリプション型サービスですので、すでにG5を利用している人は、G6を追加料金なしで使うことができます。Web版を使っている人は、アクセスすればG5に加えてG6のアイコンが表示されているはずです。ネイティブアプリ版を使っている人も同様ですが、G6のアイコンが出ていない場合は、再起動すれば表示されます。
※ アプリ版を使っている人で、オフラインで(ネットに接続しないで)G6を使いたい人は、メニューバーの「…」をクリックして表示される「辞書の管理」からデータをインストールする必要があります。一旦辞書データをインストールすれば、それ以降はインターネットに接続しなくても使えます。

今までは、紙の辞書はもちろん、電子辞書専用機や多くの辞書アプリでも、辞書が改訂されると別の書籍の扱いになり、新たに購入する必要がありました。DONGRIでは、G6が追加費用なしで使えるだけでなく、今まで使っていたG5もそのまま残っていますので、最新版の記述と比較することもできます。

g6とg5のアイコン

英語を仕事で使っている人はもちろん、大学入試や資格試験対策のために高校生の皆さんにとっても、辞書は最新版を使うことが大切になります。新語が豊富に収録され、記述内容も最新の英語の動向が反映されているだけでなく、より見やすく、使いやすくなっているからです。そのため、英語や辞書の研究者などを除けば複数の版を引き比べる必要はほとんどありませんが、とくに先生方の中には、長年親しんできたG5と最新版のG6ではどこが違うのかということに関心を持つ人も多いのではないでしょうか。

今回のコラムは、特集として、今までのコラムでとりあげてきたG5と、新たにDONGRIのラインナップに加わったG6を、実際にDONGRIで辞書を引きながら比較してみたいと思います。英語に関心を持つ高校生の皆さんだけでなく、長年G5を使ってきた英語の先生方にも参考になれば幸いです。

なお、G6が登場してからDONGRIで『ジーニアス英和辞典』をインストールした人は、G6のみ使うことができます。今回は、G5を持っていない方にも分かりやすくなるように、必要に応じてG5とG6の両方の画面を載せながらお話しします。

G6で新たに追加された語句

多くの人が新しい辞書に期待するのは、最新の世界情勢を反映させた新語がどれだけたくさん載っているかということではないでしょうか。G6は高校生でも使える辞書ですから、専門家向けの大辞典のようにたくさんの新語を載せることはできませんが、大辞典や他の高校生向け辞書を含め、現時点ではG6にしか出ていない語の一例として、以下のような語があります。実際にG6を引いて意味を確認してみてください。

COVID-19, CLIL, Niue, FLOTUS, GAFA, Generation Z, Multi-touch, ad blocker, bloggable, face-shield, infodemic, keyboard warrior…(ここに出した語はごく一部です)

COVID-19, Generation Z, GAFAのように英字新聞やニュースなどで頻繁に見聞きする語はもちろん、Multi-touch, ad blockerといったスマホやネットの急速な普及で誕生した専門語、infodemicやkeyboard warriorのように、ネットを適切に使うために高校生の皆さんにもぜひ知っておいていただきたい語、Niueなどの最近独立した国家名など、G6には他の辞書に全く出ていない語を含め、約1000語の新語、新語義が追加されています。

G6で新設されたコラム

今の時代は、単に単語の意味を知るだけならネット上で引ける無料辞書でも用が足せます。一方、紙の辞書や、DONGRIをはじめとした紙の辞書をもとにした辞書アプリは、意味や用例だけでなく、辞書独自のコラムが多く収録されていますので、英語力を伸ばすだけでなく、英語に関する興味を深めることにも一役買ってくれます。

類語比較や語法のコラムなど、G5に出ていたコラムはG6でもそのまま引き継がれていますが、それに加えて、「語のしくみ」「英語史Q&A」というコラムが新設されました。

「語のしくみ」

「語のしくみ」は、単語の中で共通する意味を持つ「パーツ」を取り出し、解説したもので、高校1年生からふだんの英単語学習に活用することができるコラムです。

produceをG6で引き、「語のしくみ」を見てみましょう。

produce_語のしくみ

duc (duce、 duct)の部分が「導く」という意味を持ち、produce(製造する)、conduct(行う)、 educate(教育する)、 introduce(紹介する)、 reduce(減らす)のように、日本語訳だけを見ると何のつながりもないように見える語でも、共通する意味を持っていることが分かります。大学入学共通テストで出題されるレベルの基本的な語を中心に、体系的に学習することができるので、日常的な英語学習でも積極的に利用したいコラムです。

「英語史Q&A」

「英語史Q&A」は、より上級レベルの学習者向けです。英語を勉強するにつれて感じる素朴な疑問の中で、今までは「こういう規則だから覚えなさい」と言われてきたものを、英語の歴史をひもとくことで「深堀り」します。

knightをG6で引き、「英語史Q&A」を見てみましょう。

knight_英語史Q&A

know, knee, knightなど、knで始まる語では、kを発音しない(黙字)ということは中学校でも教わります。「なぜですか?」と生徒に質問されて戸惑った先生方も多いのではないでしょうか? 数学のように理論を積み上げることで説明ができる科目と違い、長い歴史の中で変化してきた英語は、今の姿を見ているだけでは、中学生が疑問に思うようなことでさえ解決することができません。

「英語史Q&A」では、昔は/k/も発音されていたのに、音声が変化して現代英語では発音されなくなった一方で、文字はそのまま残っているので文字と音にずれが生じているということが、分かりやすく説明されています。テープレコーダーのなかった時代には、音声は記録に残らないので文字よりも変化しやすいという、英語の史的変化を考える上で最も重要な概念の一つが、高校生でも理解できるような形で説明されています。

他の高校生向け辞書でも見られないようなハイレベルなコラムですが、英語ということば自体に関心を持ち、将来英語を専門に学ぼうと思っている高校生にとっては、大学の英語学科などで本格的に学ぶ英語史の導入になり、英語学や言語学といった学問としてことばを学ぶことの楽しさに気づくのではないでしょうか。
中学や高校の英語の先生方にとっては、生徒からの素朴な疑問に答えたり、授業で発展的な説明をするときにも使える宝箱のようなコラムと言えます。

意外と知られていない「減った情報」

G6の冊子版が出たばかりの頃、以前から頻繁に辞書を引いている学生が研究室にやってきたので、これが新しいジーニアスですよ、と紹介しました。自分の使っている辞書が改訂されるという経験は初めてのようで、G6とG5を丁寧に見くらべていましたが、「新しい版なのにコラムの分量が減っていたり、削除された語もあるみたいですが、なぜですか?」と驚いていました。情報が減っていることに気づいた学生は珍しいですが、ネットの世界では毎日のように情報が増えるのがあたりまえで、なぜ減らす必要があるのか、と感じたのは筋がいいのかもしれません。

とくに、紙の辞書の場合、限られたスペースにたくさんの情報が載っているのが当然という風潮があるためか、改訂版をPRする際にも新たに追加された語句の数を前面に出すことが多いのですが、実際には、削除された情報もかなりあるということはあまり知られていません。

DONGRIでG5とG6の両方が検索できる方は、Plutoを引いてみてください。

pluto_g5g6

G5では動詞の語義も出ていますが、G6では名詞しか出ていません。今の高校生の皆さんは、冥王星(Pluto)という名前さえ聞いたことのない人も珍しくないかもしれませんが、当時Plutoが太陽系の9大惑星から除外されたときは大きなニュースになり、比喩的に「~を降格させる」という意味の動詞用法が一時的に流行しました。今では時代遅れの表現となり、高校生向けの辞書に載せるほどよく使われるわけではないためか、G6では削除されています。

削除されなくても、分量を調整してより分かりやすく、簡潔に書き直した場合もあります。abilityの類語比較もその一つです。

ability_g5g6

G5では文章で書かれているので、類語のニュアンスの違いが直感的に分かりにくかったのですが、G6では「後天的・潜在的」「現在のこと・未来のこと」という重要な点に絞って箇条書きで示し、一般的な高校生がすぐに理解できるように工夫されています。

情報を増やすだけでなく、減らすことができるのも冊子辞書ベースの辞書ならでは

改訂版なのに削除されたり減っている情報があるということを知り、マイナスにとらえる人もいるかもしれません。しかし、(手前味噌で恐縮ですが)冊子辞書の編纂に携わる私にとっては、これこそが、冊子辞書(や冊子辞書をもとにした辞書アプリ)ならではの大きな長所だと思います。闇雲に情報量を増やすのでなく、辞書を利用する人の気持ちや使い勝手を最優先に考え、時には(載せたくても)「載せない勇気」をもって全力で編纂にあたっていると考えてみてはいかがでしょうか。

ちなみに、上述の学生は私のクラスの中でも屈指の英語力を持っていますが、多くの学生が機械翻訳や無料の辞書サイトを辞書がわりに使う中で、ジーニアスをはじめとした有料辞書は情報の信頼性が高く、手放せないとよく言います。DONGRIをお使いの皆さんも、信頼のおける辞書アプリで、信頼のおける辞書を引くことを習慣づけて、大学受験が終わってからもさびつかない英語力をつけてください。

この記事の執筆者

関山健治(せきやま けんじ)先生写真

中部大学 准教授

関山健治先生

沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007年、小学館)、『英語のしくみ』(2009年、白水社)、『日本語から考える!英語の表現』(共著、2011年、白水社)、『英語辞書マイスターへの道』(2017年、ひつじ書房)などがある。

執筆・校閲者として『ウィズダム英和辞典(第3版)』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典(第5版)』(小学館)、編集委員として『ベーシックジーニアス英和辞典(第2版)』などを担当。

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