中部大学 准教授
関山健治先生
沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。
【辞書コラム②】英語らしい発音への近道!
#初級
英語の発音を身につけるために大事なことは、まず英語の「発音の単位」を把握することです。日本語にも発音の単位はあります。たとえば、beautifulという語は、カタカナで「ビューティフル」と書かれますが、これを日本語式に発音すると、「ビュ」「ー」「ティ」「フ」「ル」のように5つの単位(日本語の発音の単位は「拍」と呼びます)で読まれます。拍は、俳句や短歌を作るときの字数を数える単位と考えれば分かりやすいでしょう。
では、英語のbeautifulはどうでしょうか。beautifulを辞書で引いてみてください。
beau・ti・ful
単語の綴りの間にある「・」に注目してください。英語の発音の単位は「音節」と呼ばれますが、英語では”beau” “ti” “ful”の3音節で読まれます。日本語では5拍なのに、英語では3音節で読む、というように、発音の単位がいくつあるかの違いを意識することが、英語らしい発音をするための第一歩です。3つの単位で読むことを意識しながらbeautifulを声に出して発音してみましょう。
英語らしい発音というと、lとrを区別して発音するといった、1つ1つの音の違いをイメージする人が多いと思いますが、その前に、それぞれの単語の音節の区切りを意識し、その単位で発音することを身につけましょう。
次に、strangeを引いてみましょう。
beautifulと違い、「・」が一つもついていません。このような単語は1音節の語ですので、全体で1つの音節として読みます。日本語では「ス」「ト」「レ」「ン」「ジ」の5拍になりますが、英語では1音節なので、sやtの後に余分な母音を入れないで読むようにしましょう。
今度は、逆に長い単語を引いてみましょう。たとえば、psychologicalを辞書で引き、音節の区切りを調べてみましょう。
ジーニアス英和辞典の場合、
psy-cho・log-i・cal
のようになっています。
「・」だけでなく「-」も使われていますが、どちらも音節の区切りを表しています。そのため、psychologicalは”psy” “cho” “log” “i” “cal”の5音節の単語ということになります。
なぜ「・」と「-」の2種類の区切り記号が使われているのか、ここでは詳しく触れませんので、興味のある方は右上の「i」のアイコンをタッチして凡例を見てください。
このように、音節区切りの位置や記し方は辞書によって多少違いがあります。複数の辞書を引き比べることは、とくに英語上級者にとっては大切なことで、皆さんの中にはDONGRIのラインナップから複数の英和辞典を購入して使っている人もいるかもしれません。しかし、音節区切りについては、複数の表記があると混乱のもとになりますので、お気に入りの辞書を1つ決め、その辞書の表記に親しむことが大切です。
音節の数と合わせて意識したいのは、第一アクセントのある場所です。たとえば、beautifulを辞書で引き、発音記号を見てみましょう。発音記号は見たこともない文字がいくつか出てきますが、発音記号の読み方は後で学びますので、ここでは発音記号についているアクセント記号(’)に注目しましょう。
beautifulの場合、3つの音節のうち、最初の音節にアクセントがあることが分かります。
皆さんの中には、英語の授業で「アクセントのある音節は強く読む」と教わった人もいるかもしれません。たしかに、英語のアクセントは強弱アクセントと呼ばれますが、アクセントのある場所を強く読む(=大きい声で読む)と、怒鳴っているように聞こえてしまい、相手を怖がらせてしまうかもしれません。実際には、「アクセントのある音節は、アクセントのない音節よりも長めに、ゆっくり読む」ようにすると英語らしく聞こえます。
日本語は、1つ1つの拍がほぼ同じ長さです、そのため、5つの手拍子に合わせて「ビューティフル」と読むことができます。一方、英語の発音の単位である音節は、アクセントのある音節かどうかで長さが変わります。たとえば、beautifulの場合、”beau”を”ti” “ful”の2つの音節と同じぐらいの長さで読むつもりで発音してみましょう。日本語の「ビューティフル」が「タタタタタ」だとすると、英語のbeautifulは「タータタ」のように読めばよいのです。
今回は、辞書の音節区切りに着目し、英語らしい発音の単位を意識することをお話ししました。「英語の音節の数を意識する」「アクセントのある音節は長くゆっくり読む」という英語の「音の輪郭」に注意すれば、日本語なまりはあっても、英語母語話者はもちろん、英語を使う世界中の人とのコミュニケーションを可能にする英語を身につけることができます。
また、辞書アプリDONGRIでは、英語の発音を確認することができます。 「音の輪郭」を身につけた後で、発音アイコンをタッチして英語母語話者の肉声発音を聴けば、英語の発音をより身近に感じることができ、聞きとりやすく感じるのではないでしょうか。
「自分で口に出すことができる音は、容易に聞きとることができる」とよく言われます。皆さんが英語を読む際に意味の分からない単語を辞書で引いたときに、意味だけでなく発音にも注意を向け、自分で口に出して発音してみることで、英語を読む力だけでなく、話す力、聴く力も身につけることができます。
中部大学 准教授
関山健治先生
沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。
著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007年、小学館)、『英語のしくみ』(2009年、白水社)、『日本語から考える!英語の表現』(共著、2011年、白水社)、『英語辞書マイスターへの道』(2017年、ひつじ書房)などがある。
執筆・校閲者として『ウィズダム英和辞典(第3版)』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典(第5版)』(小学館)、編集委員として『ベーシックジーニアス英和辞典(第2版)』などを担当。