中部大学 准教授
関山健治先生
沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。
【辞書コラム㉜】辞書の使い方
#中級
今回は、英英辞典の使い方の3回目として、英英辞典でしかできない使い方を体験してみましょう。前回に引き続き、英英辞典が好きになる「3つのポイント」の続きを見ていきます。
英英辞典や英和辞典は、専門的には「受信用辞書」とよばれ、主に英語を読んだり聞いたりする(受信する)時に使う辞書です。英語を書く、話すとき(発信するとき)に主に使う和英辞典については、23~25回目のコラムでも詳しくお話ししました。
英英辞典を使いこなせば、受信用だけでなく、和英辞典のかわりとして、発信用の辞書としても使えます。たとえば、次の日本語を英語に直してみてください。
(1) (法律を)「守る」
(2) (火を)「消す」
(3) (血を)「吸う」
(4) (飛行機が)「離陸する」
(5) (イベントなどが)「5年おきに開かれる」
日本語から英語を知りたい場合、「守る」「吸う」などの日本語を和英辞典で引くのが最も簡単ですが、英英辞典で調べることもできます。
少し頭を使う必要がありますが、たとえば、(1)の場合、「法律を守る(守らせる)」ということに関係する「人」や「物(組織)」は何かと考えます。もちろん、「警察」ですね。「警察」にあたる英語(police)を英英辞典で引いてみましょう。
この定義に含まれているobey the lawが「法律を守る」という意味ですが、obey=「従う」と覚えていると思いもつかない表現です。このように、英語訳を知りたい日本語をそのまま和英辞典で引くのではなく、「○○する人」「○○するもの」「○○する場所」…といったものが何かを考え、それにあたる英単語を英英辞典で引くというのがポイントです。
(2)は「火を消す人(物、道具)」を考えてみるといいでしょう。firefighter(消防士)、fire engine(消防車)など、いろいろ考えられますね。それぞれ英英辞典で調べてみましょう。
いずれも、put out fireという表現が使われていますので、「火を消す」というときはput out fireということが分かります。
「火を消す道具なら消火器でもよいのではないか」と思ったら、消火器(fireextinguisher)を引いてみてください。
「火を消す」という日本語にとらわれてしまうと気づかないのですが、put out fireよりももっと簡単にstop fireと言うこともできるのですね。
(3)は、「血を吸う生物」と考え「蚊」(mosquito)を引いてみると簡単です。
COBUILD Learner’s Dictionaryでは、bite people(人を噛む)と表現していますが、上級レベルのCOBUILD Advanced Dictionaryでは、より厳密にsuck their blood(血を吸う)となっています。
(4)は「飛行機が離陸する場所」である「滑走路」(runway)を引いてみましょう。
「離陸する」にぴったりな英語はtake offですが、「飛行をはじめる」と言いかえればstart flyingでも問題なく通じます。
(5)はちょっと工夫が必要です。「5年おきに開かれるイベント」にあたる英語を英英辞典で引けばいいのですが、思いつかない人がほとんどではないでしょうか。
このような場合は、5年にとらわれないで、何年おきかに開催されるイベント(で辞書に出ているような有名なもの)を考えてみましょう。4年おきに開かれるオリンピックが思いつけばしめたものです。Olympic Gamesを引いてみましょう。every four years(4年おき)をevery five yearsに変えれば「5年おき」になりますね。
このように、日本語から英語にしたいときは、和英辞典だけでなく、英英辞典を使って調べることもできます。どういう単語を引けば出ているかを推測して引く必要があるので、和英辞典で引くよりも時間はかかりますが、自分の予想が当たり、ぴったりの英語表現が出ていたときの達成感は格別です。
受験勉強で英作文の問題を解くときに辞書を引くのであれば、英英辞典を使って回り道をするのは時間の無駄だと思うかもしれません。そのようなときは、和英辞典を使ったほうが効率がいいのはいうまでもありません。一方、英語に興味のある人や、大学で英語を専門にしたい人は、時間に余裕のあるときに、ぜひ英英辞典を使って「回り道」をしてみてください。そうすることで、大学受験が終わってからも役立つ英語力をつけることができます。
前回、前々回の記事では、DONGRIにラインナップされている英英辞典のうち、主にCOBUILD Learner’s Dictionary(以下Learner’s)を使いました。皆さんの中には、英英辞典に興味を持ち、高校の授業の予習などで教科書に出ている単語を英和辞典と英英辞典の両方で調べてみようとした人もいるかもしれませんが、英和辞典には出ているのに英英辞典に載っていない語もいくつかあったのではないでしょうか。Learner’sは、英英辞典を初めて使う人でも抵抗なく使えるように、収録語数を減らし、用例や語義も重要なもののみを厳選して収録しています。そのため、大学入学共通テスト等で必要なレベルの単語でも出ていないことは珍しくありません。
DONGRIでは、先ほどの (3)、(4)の問題でも使ったように、Learner’sに加え、より上級レベルのCOBUILD Advanced Dictionary(以下Advanced)を使うこともできます。Advancedは、DONGRIでも使える『コアレックス英和辞典』や『グランドセンチュリー英和辞典』といった、高校中級向けの英和辞典と同規模の辞書ですので、大学入試レベルのかなり難しい単語も収録されています。単語の難易度に関係なく、定義は高校生の皆さんでも十分理解できるレベルで書かれていますので、Learner’sが物足りなく感じたら、追加購入してみてはいかがでしょうか。
追加購入の方法はこちら
Learner’sとAdvancedの記述の違いを、前回とりあげたshyを例に見てみましょう。
COBUILD Learner’s Dictionaryでは、「内気な」「恥ずかしがりの」という意味しか出ていませんが、Advancedを引くと、(何が起こるか不安なので)「ためらう」「気が乗らない」という意味でも使われることがわかります。日本語では、内気な人に対して「あの人はとてもシャイだ」と言えますが、(ジェットコースターに乗ろうと言われて)「ちょっとシャイだからやめておくよ」とは言いませんね。shyのように、カタカナ語として日本語に定着している単語は私たちにはなじみがあるため油断してしまい、「ためらう」のように英語でしか使われない意味があることを見落としてしまうこともあります。
Advancedでは、Learner’sに出ていない語義が追加されているだけでなく、用例も実際の英語からそのまま抜き出したような、より長く、難しい語が使われているものに差し替えられていることもあります。たとえば、She was a shy and retiring person off-stage.(女は、私生活では内気で引っ込み思案な人だ)という用例では、retiring(引っ込み思案な)、off-stage(ステージの裏、私生活)といった、大学受験レベルを超えるような語が使われています。英語に興味のある皆さんで、Learner’sを使って英英辞典に抵抗感がなくなった人は、ぜひAdvancedも使ってみてください。
これまで、英英辞典の使い方を基礎から詳しくお話ししてきましたが、最初にふれたように、英英辞典は英和辞典の上級版ではありません。英和辞典を今まで通りに使いつつ、英英辞典に少しずつ慣れることで、英語を英語で考える習慣が日本に居ながらにして身につきます。
ちなみに、私の英語の授業では、英語を専門としていない学生のクラスでも、単語の小テストはCOBUILDの英英辞典を使い、英英辞典の定義から英単語を答える形式で実施しています。中学や高校で、日本語訳と英単語をマッチングさせる単語テストを受けてきた学生は、英英辞典を使った小テストには全く歯が立たず、はじめのうちは、範囲が決まっているのに0点をとる学生は珍しくありません。小テストが難しすぎるという不満が殺到する中で、英英辞典の定義の読み方や使い方を辛抱強く指導していくうちに、半年もすると多くの学生が満点近くとれるようになります。高校生の皆さんは、ぜひ今のうちからDONGRIを使って英英辞典に親しみ、大学受験が終わってからも使える単語力を身につけることをおすすめします。
中部大学 准教授
関山健治先生
沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。
著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007年、小学館)、『英語のしくみ』(2009年、白水社)、『日本語から考える!英語の表現』(共著、2011年、白水社)、『英語辞書マイスターへの道』(2017年、ひつじ書房)などがある。
執筆・校閲者として『ウィズダム英和辞典(第3版)』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典(第5版)』(小学館)、編集委員として『ベーシックジーニアス英和辞典(第2版)』などを担当。