中部大学 准教授
関山健治先生
沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。
【辞書コラム⑪】辞書の使い方
#初級#形容詞・副詞
今回と次回の2回で、形容詞について学びます。まず、初級編として中学校で学習した比較級、最上級の作り方について復習しましょう。
形容詞には、原級(辞書の見出し語に出ている形)と比較級(2つのものを比べるときに使う形)と最上級(3つ以上のものの中で、もっとも~であるという形)があります。
皆さんの中には「短い形容詞は-er(比較級)、-est(最上級)、長い形容詞はmore-(比較級)、most-(最上級)のように変化する」と教わった人もいるかもしれません。たしかに、tallのように「短い」単語はtall-taller-tallestのように変化し、beautifulのように「長い」単語はbeautiful – more beautiful – most beautifulのようになります。
では、strongとfamousはどうでしょうか? どちらも6文字の語ですが、strong – stronger – strongest / famous – more famous – most famousのように、変化形は違います。
形容詞の変化形は、単語の文字数ではなく、第2回のコラムでとりあげた音節の数で決まります。原則として、1音節の単語は-er、 -est型の変化をし、2音節以上の単語はmore-、 most-型の変化をしますが、2音節の単語はつづりによって-er、 -est型の変化をすることもあります。上の例の場合、strongは1音節、famousは2音節なので文字数は同じでも変化形は違ってしまうのです。
慣れてくると、初めてきいた単語でも音節数を推測し、正しい変化形を予想することができるようになりますが、初めのうちは面倒でも辞書を引き、比較変化を確認するようにしましょう。
たとえば、『ジーニアス英和辞典』でstrongを引くと、次のように変化形が出ています。
動詞の変化形と同じように、「~」の部分には見出し語であるstrongが入りますので、比較級はstronger、最上級はstrongestであることが分かります。
同様に、famousも引いてみましょう。
more [most] ~ 比較級はmore famous、 最上級はmost famousであることが分かります。
単語によっては、比較級や最上級ではつづりの一部が変わることもあります。たとえば、busyを引いてみてください。
busyの場合、そのまま-er、 -estをつけるのでなく、yをiに変えてbusier、busiestのような形になります。
比較級や最上級の示し方は、辞書によって違います。ベーシックジーニアス英和辞典のような初級向けの辞書では「~」や「–」のような記号を使って省略しないで、完全な形で比較級、最上級を載せています。
重要度ランクの低い単語では、比較級、最上級が出ていないこともあります。この場合は、1音節の単語であれば-er、 -est型の変化をし、2音節以上の単語はmore-、 most-型の変化をします。たとえば、temperate(温暖な)を引いてみましょう。
この単語は一般的な大学入試レベルを超える語(ジーニアス英和辞典では、Cランク(大学生・社会人に必要な語)となっています)なので、比較変化は出ていませんが、見出し語をみると3音節の語であることが分かりますので、more temperate、 most temperateのように変化します。
形容詞の比較級、最上級は、2つの意見を比較して自分の考えを述べたり、もっともよい意見を1つ選ぶ時など、英語を話すときだけでなく、英語を書くときにも頻繁に使われます。とくに、英検の記述英作文や、難関大学を中心に出題される自由英作文の際には、比較変化形のつづりを間違えると減点されますので、今のうちに正しい形を覚えておきましょう。
形容詞を辞書で引くときにもう一つ注意しないといけないのは、どういう種類の名詞と一緒に使われるかということです。
たとえば、expensiveが(値段が)「高い」という意味であることは中学校でも学びますので、「ニューヨークの物価はとても高い」と言いたいときに、Prices in New York are very expensive. のようにする人が大学生でもたくさんいます。
expensiveを辞書で引いてみてください。
「〈物・事が〉」とあるように、expensiveは品物などと一緒に使われます。そのため、This dictionary is very expensive.(この辞書はとても高い)なら問題ありませんが、price(物価)を主語にすることはできません。辞書の注記にあるように、priceのような金銭に関する語とともに使う場合はhighを使います。
highを引いてみると4番目の語義に〈価格・率などが〉高いとありますので、Prices in New York are very high.のようになります。
このように、多くの辞書では訳語の前に「どういう種類の単語とともに使われるか」をカッコ書きで記しています(「選択制限」と言います)。特に形容詞の場合は、日本語では同じ単語を使うのに、英語では別々の単語を使い分ける必要がある場合が多くありますので注意が必要です。
私を含め、辞書の執筆者、編集者は、膨大な英語のデータベース(コーパス)をもとに、この形容詞はどういう名詞と一緒に使われるのかということを、時には1つの単語に数時間かけて調べ、選択制限の記述に反映させています。受験用単語集のように「覚える」ことを優先して訳だけを載せるのでなく、辞書には、皆さんが自信をもって単語を「使う」ための情報が多く載っていますので、DONGRIに収録されている辞書を使いこなすほど、英語の力も確実に伸びていくはずです
中部大学 准教授
関山健治先生
沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。
著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007年、小学館)、『英語のしくみ』(2009年、白水社)、『日本語から考える!英語の表現』(共著、2011年、白水社)、『英語辞書マイスターへの道』(2017年、ひつじ書房)などがある。
執筆・校閲者として『ウィズダム英和辞典(第3版)』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典(第5版)』(小学館)、編集委員として『ベーシックジーニアス英和辞典(第2版)』などを担当。