【辞書コラム⑤】辞書の使い方

名詞を引いてみよう② ペンは数えられて、チョークは数えられないのはなぜ?

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名詞を引いてみよう② ペンは数えられて、チョークは数えられないのはなぜ?

前回は、数えられる名詞(可算名詞)を引くときのポイントをお話ししました。 今回は、数えられない名詞(不可算名詞)を引いてみましょう。英語の不可算名詞の中には、日常的な感覚では数えられそうなものもたくさんありますので、慣れるまでは意味を知っている単語でも辞書を引き、[C][U]の記号を確認するようにしましょう。 数えられない名詞にはいくつか種類があります。それぞれについて、辞書でどのように記されているか見ていきましょう。

絵に描くことができないもの(抽象名詞)

不可算名詞の中でもっとも分かりやすいものが、日常的に数えることがあまりない名詞です。environment(環境)やsuccess(成功)といったもので、抽象名詞と呼びます。
dogやbookのような一般名詞と違い、絵に描くことができない名詞と考えると分かりやすいでしょう。





不可算名詞は、数えることができないので複数形が出ていないことにも注意しましょう。

元の材料の特徴が残っているもの(物質名詞)

不可算名詞で厄介なのは、一見数えられそうに見えるものです。
前回例に挙げたchalk、 pizza、 coffee、 paper(『紙』の意味で)は、「チョーク2本」「ピザ一切れ」「コーヒー3杯」「紙2枚」のように日本語では数えられそうに見えますが、いずれも英語では数えられない名詞です。
それぞれ、辞書を引き、[U]という記号がついていることを確認しましょう。



 

 



皆さんの中には、「ペンは可算名詞なのに、なぜ同じような形をしたチョークが数えられないのか」「paperには『紙』という意味だけでなく『新聞』という意味もあるのに、なぜ新聞は数えられるのに紙は数えられないのか」などと思う人もいるかもしれません。目安として「元の材料の特徴が残っていれば不可算名詞」と考えるといいでしょう(このような名詞を、物質名詞と呼びます)。
たとえば、チョーク(不可算名詞)は石こうを固めたものですので、可算名詞であるペンよりも原材料の特徴が残っています。印刷物である「新聞」(可算名詞)と加工していない「紙」(不可算名詞)も同じような関係であると言えます。

では、不可算名詞を数えたいときはどう言えばいいでしょうか。たとえば、「チョーク2本」「コーヒー3杯」を英語にしてみましょう。いずれも不可算名詞ですから、two chalks、 three coffeesとは言いません。




このように、数えられない名詞を数えたいときは、two、 threeのような数詞のあとにpiece、 cupのような数えられる名詞をはさみ、two pieces of chalk、 three cups of coffeeのように言います。
chalkやcoffeeは複数形にできないので、かわりにpiece、cupを複数形にするということです。
このような数え方をする名詞を辞書で引くと、どのような形で使うかが用例として出ていることが多いので、単語の意味だけでなく用例も確認するようにしましょう。

複数のものを「束ねた」もの(集合名詞)

名詞の中には、様々な名詞を束ねて、1つにまとめた意味を表す語があります。
たとえば、furniture(家具)は、bed、 desk、 table、 sofaなどすべてを含んだ語です。
このような語は集合名詞といい、辞書を引くと「集合的に」「集合名詞」のようなラベルがついています。
baggage(荷物)なども同じです。



日本語では「家具3点」のように数えられますが、英語の集合名詞の多くは不可算名詞なので、three furnituresとは言いません。物質名詞と同じように、集合名詞もどのように数えるか用例を見ると出ています。
たとえば、furnitureの用例を見ると、chalkなどと同じようにpieceを使い、「家具1点」は a piece of furnitureと言えることが分かります。

数えるときに注意が必要なもの(単数扱い・複数扱い)

不可算名詞の中には、注意が必要な語がいくつかあります。ズボンや眼鏡、はさみなど、日常的によく使う名詞の中には、不可算名詞なのにpants、 glasses、scissorsのようにsをつける語もあります。

たとえば、scissors(はさみ)を引いてみましょう。



はさみには刃が2本ついていますが、英語では、glasses(眼鏡)、pants(アメリカ英語ではズボン、イギリス英語ではパンツ)のように、2つの部分がペアになっているものの場合、不可算名詞であっても常に複数形を使う語があります。
このような語を辞書で引くと「複数扱い」「複」のようなラベルがついています。
「複数扱い」の語は、たとえ1つのはさみ、1本のズボンであっても、常にscissors、 pantsのように複数形で使い、scissor、 pantという形はありません。
また、「はさみ(1本)は引き出しの中にあります」という場合でも、The scissors are in the drawer.のように、isではなくareを使うということに注意しましょう。

次に、mathematics(数学)を引いてみましょう。



「単数扱い」というラベルに注目してください。
mathematicsも、scissorsやpantsのように常にsをつけた形で使いますが、sがついていても単数形のようなふるまいをします。たとえば、「好きな科目は数学です」と言いたい場合、
Mathematics is my favorite subject.のように、isを使います。


2回に分けて、名詞を辞書で引くときのポイントについてお話ししました。
まず、日常的に数えるかどうかに惑わされないで辞書を引き、可算名詞か不可算名詞かを確認することが重要になります。
特に、今回お話しした不可算名詞には様々な種類がありますので、[C][U]の記号だけでなく、「単数扱い」「複数扱い」といったラベルを確認し、用例を参考にして正しい表現ができるように練習してみましょう

この記事の執筆者

関山健治(せきやま けんじ)先生写真

中部大学 准教授

関山健治先生

沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007年、小学館)、『英語のしくみ』(2009年、白水社)、『日本語から考える!英語の表現』(共著、2011年、白水社)、『英語辞書マイスターへの道』(2017年、ひつじ書房)などがある。

執筆・校閲者として『ウィズダム英和辞典(第3版)』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典(第5版)』(小学館)、編集委員として『ベーシックジーニアス英和辞典(第2版)』などを担当。

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