中部大学 准教授
関山健治先生
沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。
【辞書コラム㊱】辞書の使い方
#中級
卒業式も終わり、DONGRIを使っている高校生の皆さんの中には4月から大学に進学したり、社会人になる人も多いと思います。高校生の頃は、目の前の大学受験や就職試験を突破することを目的として英語を学んでいた人も多いかもしれませんが、これからは、入学した学部の専門科目や仕事の中で英語と関わっていくことになります。今までと違い、英語を使う目的は専門分野や仕事の中身で大きく違ってきますが、共通していることは、英語を「書く」機会が今までよりも多くなるということです。
日本人は英語を話すことが苦手だ、などとよく言われますが、英語圏で留学をした人は、話すことよりも書くことのほうがはるかに難しいと口を揃えて言います。春休みに語学留学をした学生がいますが、毎日数百語の英語を書く課題を通して、英語を書くときに使える自然な例文の多い和英辞典の必要性を感じたそうです。
33回目のコラムで、『ウィズダム和英辞典』『オーレックス和英辞典』などの学習和英辞典の特徴をお話ししました。これらの和英辞典は、大学入試の勉強だけでなく、大学に入った後や社会人になってからも役立ちますが、従来の和英辞典とはひと味違った個性を持つ『コンパスローズ和英ライティング辞典』がDONGRIのラインナップに加わりました。
今回は、主にこの春から大学生や社会人になる皆さんや、高度な英語ライティング問題が出題される難関大学を志望している受験生の皆さんを主な対象に、『コンパスローズ和英ライティング辞典』の特徴を紹介したいと思います。
『コンパスローズ和英ライティング辞典』は、大学生がレポートや論文を英語で書いたり、社会人が仕事でビジネス文書を書いたりといった、実用的でフォーマルな英文の作成に特化した和英辞典です。今まで皆さんが使ってきた高校生向けの学習和英辞典よりも専門的な場面で使うことを想定した辞書なので、はじめての和英辞典として使うには向いていません。収録語数は約15000語なので約50000~90000語を収録した学習和英辞典よりかなり少ないのですが、論文やビジネス文書でよく使われる語に限っているため、改まった英語を書く際には十分な規模の辞書です。
『コンパスローズ和英ライティング辞典』は目的に応じて様々な使い方ができますが、まず、通常の和英辞典のように使ってみましょう。ここでは、「先生と新しい校則(school rules)について議論した」という文を英語にしてみましょう。
皆さんの中には、「議論する」はdiscussを使えばいいと思った人もいると思います。『コンパスローズ和英ライティング辞典』で確認してみましょう。
discuss以外で、argue, dispute, debateにも「議論する」という意味があるのですね。受験用単語集などではargueは「口論する」、disputeは「論争(する)」、debateは「討論(する)」のような訳がついていますが、「ことばを使って互いにやりとりをする」という点では、これらの語は共通していることが分かります。
『コンパスローズ和英ライティング辞典』では、日本語の意味に近い英訳語をなるべく多く挙げ、《 》を使ってそれぞれのニュアンスの違いを的確に示しています。「議論する」の場合、自分の考えを一方的に相手に伝える場合はargue、相手の意見も聞きながら解決策を一緒に考えるのがdiscuss、相手の意見の欠点を探して感情的に論破するのがdispute、公の場でルールを決めて議論するのがdebateであることが、ここからも分かりますね。
英語を書くときは、日本文のニュアンスにあった単語を選ぶだけでなく、文法的に正しい構文で表現することも重要になります。『コンパスローズ和英ライティング辞典』では、多くの用例の直後に構文の表示がついています。discussは他動詞なのでdiscuss (V)の直後に目的語(O)がくることは皆さんもよく知っていると思いますが、“We discussed joining the union.”, “They discussed how they should solve the problem.” のように、目的語に動名詞(-ing)やwhat, howなどを伴うことは大学生でも知らない人が多いようです。
このような情報を参考にすると、「先生と新しい校則(school rules)について議論した」という文の場合、校則を改正するために、生徒と先生が対等に意見交換をしたという場面であれば、“We discussed the new school rules with our teacher.”のように言えますし、生徒と教員の意見が違うので、生徒側が自分の意見の正しさを主張したという場面であれば、“We argued with our teacher about the new school rules.”のようになります。
『コンパスローズ和英ライティング辞典』は、英語を書くときに必要な単語のニュアンスの違いや構文の表示などの情報に絞って分かりやすく示していますので、出ている例文を参考に単語を置きかえることで、機械翻訳などがとても太刀打ちできない自然な英語を書くことができます。
『コンパスローズ和英ライティング辞典』が通常の和英辞典と違うのは、大学生や社会人が実用的な英語を書くときに必要な情報が詳しいということです。たとえば、「ぎろん」を引くと、最後に色刷りのサイドバー(縦線)がついている用例があります。
これらの用例は、社会人が目にすることの多いビジネス文書(「B」(Business)のついたもの)や、大学生や研究者が論文やレポートと言った学術的な英文を書く際に必要なもの(「A」(Academic)のついたもの)です。これらの用例を見ると、論文では著者の主張を明確にして書く必要がありますから、「議論する」と言いたい場合はargueがもっともよく使われることが分かりますね。
サイドバーのついた用例の中には、「TPL(Template)21」のように、ビジネス文書や論文のひな形(テンプレート)を参照できるものもあります。たとえば、一番最後の用例では、“in line with this argument”(この議論に沿う)という表現が使われています。赤地になっている「TPL 21→Discussion 2」をクリックすると、論文のテンプレートにジャンプし、論文の中の「考察」(discussion)のセクションが表示されます。in line with this argumentと言うフレーズが、論文の中で実際にどのように使われているのかが一目で分かりますね。
このように、和英辞典的な引き方をして、そこに出ている用例からテンプレートにジャンプするだけでなく、どのような英文を書くかが決まっている場合は、「索引」をクリックして「テンプレート」を選べば、テンプレート全体を一覧することもできます。たとえば、会議のメール通知を英語で書きたい場合は、TPL13をクリックすると、会議通知のメールのテンプレートが表示されます。一から和英辞典と首っ引きで英文を書かなくても、単語を入れ替えるだけですぐにビジネス文書を英語で作ることができるのは、「和英辞典」ではなく「和英ライティング辞典」である『コンパスローズ和英ライティング辞典』ならではの特徴です。
『コンパスローズ和英ライティング辞典』に出ている用例の多くは、ビジネス文書や学術論文、レポートなどで使うことを想定していますが、高校生の皆さんでも、英語部の部員会議の通知を英語で書いたり、学習指導要領の改訂で新設された「論理・表現」という科目で求められる、論理的に英語を書いたり話したりする力を身につける際に使える用例やテンプレートも少なからずあります。大学生や社会人だけでなく、難関大学で英語を専門に学びたい高校生の皆さんも、今まで使っていた学習和英辞典を補い、大学に入ってからもずっと使える和英辞典として、ぜひ使ってみてください。
高校在学中や受験勉強の際にもDONGRIを身体の一部のように使いこなし、共通テストをはじめとした大学入試や資格試験でもよい結果を出すことができた人も多いと思います。多くの方は高校3年間のライセンスでDONGRIを使っているでしょうから、そのままでは大学へ入ったり就職してからは使うことができなくなります。私の授業を受けている大学生でも、高校卒業時にライセンスが切れてしまったため、今はスマホなどの無料辞書しか使っていないという学生もいますが、せっかく高校生の頃にDONGRIを使って力をつけたのに、より高いレベルで英語を学ぶ大学に入ってから辞書から遠ざかってしまうのは本末転倒です。
とくに、今回紹介した『コンパスローズ和英ライティング辞典』は大学生や社会人になってから英語を使うときにこそ真価を発揮する辞書ですので、今年の春に高校を卒業した皆さんは、これからもDONGRIを使い続けていくことをおすすめします。DONGRIでは、追加料金を払うことで大学に入学してからも継続して使えるライセンスがあります。高校生の頃に使った学習データ(しおりやメモに書いた内容など)もそのまま引き継げるので、大学生や社会人になってからも今までと同じ環境でDONGRIを使い続けることができます(詳細はこちら)。
最近は、入試成績が良い大学生でも、受験勉強で辞書をほとんど使わなかったという人は珍しくありません。大学に入ってからも、使い慣れたDONGRIの辞書をそのまま使い続けることで他の同級生と差別化できるため、GPA(Grade PointAverage:大学では、科目ごとの成績評価を数値化し、奨学金や交換留学などの審査で使われます)もよくなり、充実した大学生活が送れると確信します。高校を卒業してからもDONGRIの辞書を使い続け、必要な情報は自分の力で手に入れる習慣をつけてください。
中部大学 准教授
関山健治先生
沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。
著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007年、小学館)、『英語のしくみ』(2009年、白水社)、『日本語から考える!英語の表現』(共著、2011年、白水社)、『英語辞書マイスターへの道』(2017年、ひつじ書房)などがある。
執筆・校閲者として『ウィズダム英和辞典(第3版)』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典(第5版)』(小学館)、編集委員として『ベーシックジーニアス英和辞典(第2版)』などを担当。