【辞書コラム㉛】辞書の使い方

英語学習が楽しくなる「魔法の辞書」:英英辞典を使ってみよう(応用編)

#中級

英語学習が楽しくなる「魔法の辞書」:英英辞典を使ってみよう(応用編)

今回は、英英辞典の使い方の2回目として、英英辞典でしかできない使い方を体験してみましょう。前回に引き続き、英英辞典が好きになる「3つのポイント」の続きを見ていきます。

ポイント2:「英和辞典を引いてもしっくりこない時に英英辞典を引いてみよう」

英和辞典は、例えて言うと大海原にいる無数の魚(単語)を捕まえる網のようなものです。きめの細かい網(英和辞典)を使えばたくさんの魚が網にかかりますが、どんなに細かな網を使ってもすり抜けてしまう魚が出てきます。日本語と英語は1対1で対応しているとは限らないので、英和辞典で日本語訳を見てもピンとこないことはよくあります。

英和辞典では区別がわかりにくい語のニュアンスもわかる

たとえば、shyとreservedを英和辞典で調べてみましょう。

shyをジーニアス英和辞典で引く

reservedをジーニアス英和辞典で引く

どちらも「内気な」という訳が出ています。それでは、He is so shy. / He is so reserved.という文はどちらも同じような意味なのでしょうか?

今度は、英英辞典でshyとreservedを引いてみましょう。

shyをコウビルド英英辞典で引く

(shyであるとは、よく知らない人に話しかけるときに不安だったり恥ずかしかったりするということである)

reservedをコウビルド英英辞典で引く

(reservedである人とは、自分の気持ちを隠している人のことである)

英英辞典の定義を見ると、shyは、あまりよく知らない人と話す時に「緊張したり戸惑ったりする」というニュアンスなので、意図的にそうしているのではなく、性格的な面が強調されます。「もじもじした」「内向的な」といったような意味なのかと感じた人もいたかもしれません。

このように、英英辞典の定義が理解できるようになると、定義を読んだだけで英和辞典に出ていない訳がひらめくこともよくあります。英英辞典を使うことで、英語だけでなく、母語である日本語の感覚も磨くことができるのです。

一方、reservedは、「自分の感情を隠す(外に出さない)人」の意味があります。shyと違い、生まれつきの性格とは限らず、何らかの意図を持って相手と距離を置いたり、あえて打ち解けないで壁を作るといった場合でも使われます。多くの英和辞典に出ている「内気な」というよりは「よそよそしい」というニュアンスが含まれることも多いので、shyよりもマイナスなニュアンスで使われることもあることに気づくのではないでしょうか。

このように、英英辞典では「訳」ではなく、英語で「定義」(説明)をしています。たとえて言うなら、海中に網を張って魚を捕まえるのでなく、海水をまるごと水槽に移して魚を探すようなものですから、意味のずれがなく、慣れてくると小さな魚でも見つけることができるようになります。

英英辞典の定義を読むことで英語のリーディングの力をつけることができるのはもちろん、日本語にも敏感になり、日本語の機微を読み解いたり、自分の意図を正確に表現することができるようになることで、現代文や小論文といった他科目の成績もよくなるということは、あまり知られていない英英辞典の「隠し味」でもあります。

意味のつながりがつかみにくい単語を英英辞典で引いてみよう

英和辞典を引いていると、出ている訳語に関連性がなく、意味を覚えるときに戸惑う人もいると思います。たとえば、aggressiveという語は受験用単語集でも「攻撃的な」という意味でよく出てきますので、すでに知っている皆さんも多いでしょう。私が大学生だった頃も同じで、aggressiveな人というと(暴力に訴えたり、怒鳴ったりといった)マイナスな意味を持つものだと思っていました。交換留学をしていた時に、英語母語話者の先生から、口喧嘩をしたり、暴言を吐いたわけでもないのに、You are so aggressive! と言われたことがあり、とてもショックを受けたことを思い出しましたが、aggressiveという語には「攻撃的な」という意味しかないのでしょうか?

英和辞典でaggressiveを引いてみましょう。

aggressiveをジーニアス英和辞典で引く

英和辞典を見ると、aggressiveには「攻撃的な」というマイナスなニュアンスの意味だけでなく、「活動的な」「積極的な」というプラスの意味も出ています。 私に”You are so aggressive!”と言った英語母語話者の先生は、授業に積極的に参加しているという意味で、ほめ言葉としてaggressiveを使ったのかもしれません。このように、英和辞典で日本語訳を見るだけでは「攻撃的な」「活動的な」のように全く関係がないようにみえる意味が共存している例は、英語では珍しくありません。

英和辞典を引いて、意味の関連性がよく分からないと思ったら、英英辞典を引いてみましょう。COBUILD Learner’s Dictionaryでも英和辞典と同じように2つの語義が出ています。ここでは2番目の語義に注目してみましょう。

aggressiveをコウビルド英和辞典で引く

(仕事などでaggressiveな人とは、うまくやりたいという意欲があるので一所懸命にふるまう人である)

日本語では「攻撃的な」と「活動的な」は全く関係がないように見えますが、aggressiveの場合、受け身の姿勢でなく、自分から前に出ようとして行動するという場合にも使われます。日本語でも「攻めの姿勢」のように言われますが、何かを積極的、活動的に行うということは、指示を待っているのでなく、「前に出る」必要がありますので、「攻撃的な」というマイナスニュアンスの意味と「積極的な」というプラスの意味は、根本では共通していることが分かります。

とくに、学業やスポーツ、ビジネスなどでは、aggressiveはプラスの意味で用いられることが多いのですが、場合によっては「がむしゃらな」「押しの強い」といったマイナスなニュアンスを持つこともあります。英英辞典でforceful(強引な、力ずくの)という語が使われていることからも、そのような微妙なニュアンスがわかります。そのため、時には、積極的、活動的といった程度を超えて自分をとことん追い込んだり、周囲に目を配る余裕がなくなっている場合にも使われます。今思うと、学生時代の私に”You are so aggressive!”と言った英語母語話者の先生は、100%のほめ言葉のつもりではなく、「たまには肩の力を抜いたほうがいいよ」という忠告のつもりだったのかもしれません。

英英辞典は大学入試に必要か?

私が高校生だった頃は、英英辞典というと英語を専門にする大学生や、英語学科をめざす英語好きな高校生だけが使う、高価で特別な辞書というイメージがありました。電子辞書専用機やDONGRIをはじめとしたスマートデバイス向けアプリが普及した今では、誰もが英英辞典にアクセスできるようになりましたが、日常的に英英辞典を使いこなしている学生は、英語を専門とする学科の学生でもあまりいないようです。

先日、某大手予備校の選抜クラスで英語を学んでいた学生が言っていましたが、予備校の頃は、「英英辞典は大学受験の勉強では必要ないから受験単語集を何冊か丸暗記しなさい」とよく言われたそうです。紙の辞書しかなかった昭和の受験生ならともかく、今はDONGRI等の辞書パッケージアプリを使えば、英和辞典と英英辞典を行き来しながら効率的な学習ができるのですから、英英辞典の使い方を知り、「aggressiveに」英英辞典を使ってみることをおすすめします。

次回は、英英辞典の使い方の最終回として、英英辞典を和英辞典のかわりに使ってみる方法や、DONGRIに搭載されている2冊の英英辞典の使い分けについてお話しします。

この記事の執筆者

関山健治(せきやま けんじ)先生写真

中部大学 准教授

関山健治先生

沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007年、小学館)、『英語のしくみ』(2009年、白水社)、『日本語から考える!英語の表現』(共著、2011年、白水社)、『英語辞書マイスターへの道』(2017年、ひつじ書房)などがある。

執筆・校閲者として『ウィズダム英和辞典(第3版)』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典(第5版)』(小学館)、編集委員として『ベーシックジーニアス英和辞典(第2版)』などを担当。

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