【辞書コラム㉕】辞書の使い方

和英辞典を使ってみよう(実践編)

#中級

英語コラム:和英辞典を使ってみよう(実践編)

前回は、和英辞典の使い方の応用編として、英和辞典と連携する方法を中心にお話ししました。今回は、和英辞典の使い方の最終回として、DONGRIならではの検索機能を使って「英借文」(えいしゃくぶん)をする方法についてお話しします。 紙の辞書と同じような引き方に加え、電子辞書らしい使い方を身につけることで、より自然な英語が書けるようになります。

ポイント4:和英辞典の例文を活用して「英借文」をする

英語を書くときは、和英辞典に出ている英訳語をそのまま使うのでなく、用例(例文)の中から自分の書きたい内容に近い文を探し、その文をもとにして英借文(えいしゃくぶん)をすると自然な英語を書くことができます。

たとえば、宿題が多すぎて期限に間に合わない友人に「宿題を手伝おうか?」と言いたいとき、英語ではどう言えばいいでしょうか?

「手伝う」を和英辞典で引いてみましょう。『ジーニアス和英辞典』では次のように出ています。

ジーニアス和英辞典で「てつだう」を引く

one’sはmy, your, his, herなどの所有格の意味ですので、「息子の宿題を手伝う」はassist my son with his homeworkと言うことが分かります。

この文を参考に、I’ll assist you with your homework. のような英語にしてもいいのですが、assistは「手伝う」というよりも「援助する、手助けをする」という日本語にあたるかなり堅い単語ですので、友達同士が話し言葉で使うには不自然です。

DONGRIで『ジーニアス和英辞典』を使っている人は、前回お話しした方法で、assistを英和辞典で引き直してみてください。

ジーニアス英和辞典で「assist」を引く

「正式」というラベルがあり、「日常語ではhelpの方がふつう」という注記がついていますので、I’ll help you with your homework.のようにすればいいのではないか、と思うかもしれません。

もっとも、親子ならまだしも、対等な関係の友達に手助けを申し出るときに、このように平叙文を使ってしまうと「きみの宿題を手伝おう」というようなニュアンスになり、押しつけがましく響きます。困っている人を助ける、手伝うという行為は、日本では美徳とされることが多いのですが、個人主義的な発想でとらえることが多い英語圏では、手助けが必要かどうかをあらかじめ相手に尋ねたほうが気持ちよいコミュニケーションができます。そのため、「宿題を手伝おうか?」をそのまま、疑問文で言ったほうがよりていねいで自然な文になりますが、『ジーニアス和英辞典』で「手伝う」や「宿題」を引いてもぴったりの用例が見つかりません。

「例文を調べる」モードで和英辞典を「例文集」として使う

紙の辞書ならお手上げになってしまいますが、DONGRIに収録されている多くの和英辞典では「例文を調べる」という検索モードがあります。「例文を調べる」モードでは、入力した日本語が含まれる例文を、和英辞典に収録されている全例文の中から探し出してくれます。たとえば、『ジーニアス和英辞典』で「例文を調べる」モードにして「宿題」を入れてみてください。「宿題」が日本語訳に含まれる例文が一覧できます。

ジーニアス和英辞典で「宿題」を「例文を調べる」で引く

その中に「宿題を手伝ってあげましょうか?」(Do you want me to help you with your homework?)という例文が見つかります。直訳すると「私に宿題を手伝ってほしいのですか」のようになり、日本人の感覚ではとても恩着せがましく感じるかもしれませんが、英語ではそのようなニュアンスはなく、対等な間柄の人に何かを申し出るときにはよく使われる表現です。

なお、この例文は、「あげる」という見出し語の中に出ています。紙の辞書では、「宿題を手伝おうか?」を英語で何と言うかを知りたいときは、和英辞典で「宿題」や「手伝う」を引くことはあっても「あげる」を調べることはまずありませんので、せっかくぴったりの例文が収録されていても見つけることができません。

DONGRIでは、「例文を調べる」モードのように、電子辞書ならではの検索機能がありますので、和英辞典を英語の例文集、例文データベースとして使うこともできます。和英辞典の語義(英訳)に出ている単語や句をつなぎ合わせると不自然な英文になってしまうこともありますが、「例文を調べる」モードで出てきた例文を「英借文」して使えば、英語が苦手な人でも自信を持って英語を書くことができるようになります。

必要な例文が見つからなくても、キーワードを変えてしつこく探してみよう

「例文を調べる」モードは、通常の検索(「で始まることば」「で終わることば」「を含むことば」「と一致することば」)と違い、入れたキーワードと完全に一致した語のみを例文の日本語訳から探します。たとえば、通常の検索では「てつだう」のように、よみがなで入れても検索できますが、「例文を調べる」モードでは漢字を使って「手伝う」のように入れる必要があります。

また、「手伝って」「手伝い」などの変化形は「手伝う」を入れても出てきません。そのため、自分の言いたい内容が見つからない場合でもあきらめないで、キーワードを短くしてみるのも一つの方法です。たとえば、「手伝」で検索すると「手伝い」「手伝った」「手伝って」などが含まれる例文も出てきます。

漢字で入れて見つからなければひらがなで入れてみたり、送りがなをつけて出てこなければ省いてみる、どうしても見つからなければ同じような意味の別の語を入れてみるなど、「しつこく探す」と調べられることもありますので、あきらめないでください。和英辞典を引くときは、英語だけでなく、国語(日本語)の知識も意外と役立ちます。

英和辞典の「例文を調べる」モードも使ってみよう

「例文を調べる」モードは英和辞典にもあります。英和辞典の「例文を調べる」モードは和英辞典とは違い、英単語を入れるとその語が含まれる例文を探してくれます。和英辞典の「例文を調べる」モードと違い、複数の単語をスペースで区切って入れることができますので、たとえば、finish homeworkと入れれば、「宿題を終える」にあたる英文をリストアップすることができます。

ジーニアス英和辞典で「finish homework」を「例文を調べる」で引く

機械翻訳やチャットAIが真似できないこと

3回に分けて、DONGRIの和英辞典の使い方をお話ししました。基本編の最初でふれましたが、和英辞典は英語を書いたり話したりするときに使う発信用の辞書です。英語が苦手な人の中には、英語を読んだり、聞いたりするだけでも大変なのに、自分で英語を考えて書いたり話したりするのはとんでもなく難しいと思う人も多いのではないでしょうか。
たしかに、大学の期末試験でも、英文和訳よりも和文英訳(英作文)の方が空欄のままで提出されることが多いですし、私たち英語の研究者でも、英語の論文を読むことよりも書くことの方がはるかに大変です。

一方で、書くこと、話すことは、自分の土俵で相撲がとれるという利点もあります。英検などの資格試験を受けたことがある人は経験したと思いますが、リスニングの問題では、自分が理解できないほど早口で英語が読まれたらお手上げです。
しかし、記述英作文では、受験者の英語力に応じて、自分が手に負える範囲の英語で表現すれば、全く歯が立たないということはありません。和英辞典を使いこなせば、辞書なしでも「自分が手に負える範囲」の英語で発信することができるようになります。

最近は、無料の翻訳アプリやAIによるチャットサービスが急速に普及してきています。今後、とくに日本人が苦手な英作文などでは辞書のかわりに機械翻訳やAIチャットを使う学生も増えてくるかもしれませんが、これらのサービスが出してくる英文は、生身の人間のチェックが一切入っていないということに注意する必要があります。

今回ご紹介したDONGRIの「例文を調べる」モードは、自分の表現したい日本語を入れれば辞書全体の例文の中から探してくれるので、見た目は機械翻訳と同じようなものですが、辞書に載っている何万という例文は、そのすべてが日本人の辞書執筆者、編集者はもちろん、複数の英語母語話者も含めた何重もの厳しいチェックをパスしているという点で機械翻訳やAIチャットとは全く異なります。200年以上の歴史とノウハウを持つ日本の英語辞書を、DONGRIという最新のアプリで自在に引きこなすことで、今後どのように技術が進化しても確実に身になる英語力をつけていってください。

この記事の執筆者

関山健治(せきやま けんじ)先生写真

中部大学 准教授

関山健治先生

沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007年、小学館)、『英語のしくみ』(2009年、白水社)、『日本語から考える!英語の表現』(共著、2011年、白水社)、『英語辞書マイスターへの道』(2017年、ひつじ書房)などがある。

執筆・校閲者として『ウィズダム英和辞典(第3版)』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典(第5版)』(小学館)、編集委員として『ベーシックジーニアス英和辞典(第2版)』などを担当。

辞書アプリDONGRI
音読トレーナーQulmee

keyboard_arrow_left記事一覧へ戻る