中部大学 准教授
関山健治先生
沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。
【辞書コラム⑱】辞書の使い方
#上級#動詞
前回は、穴埋め問題を使って意味の似た動詞を区別する方法をお話ししました。動詞の場合、自動詞と他動詞を区別することが基本になりますので、
①問題文の空欄の直後に着目して、自動詞・他動詞のどちらが入るのかを見抜く
②選択肢の単語が自動詞・他動詞のどちらであるかを辞書で調べる
③問題文の文型と辞書の文型表記を照らし合わせて、その文型で使える語を入れる
という3つのステップで問題を解く方法を説明しました。このように、辞書を使って単語の使い方の規則を知り、穴埋め問題のような実際の英文と向き合うという方法は、紙の辞書しかなかった昭和の頃から英語の授業で教えられているやり方ですが、皆さんの中には、せっかくDONGRIを使っているのだから、もっと電子辞書らしい方法はないのかと思った人も多いのではないでしょうか。
今回は、以下にある前回と同じ問題を使い、DONGRIの「例文を調べる」という検索モードで「先に実際の例文を見ながら、単語の使い方の規則を考える」というやり方を試してみましょう。
(選択肢)say / speak / talk / tell
(1) He ( ) me about the concert.(彼はコンサートについて私に話した)
(2) He ( ) , “I’m hungry.” (お腹が空いたよ、と彼が言った)
(3) She ( ) about Okinawa with her friends.(彼女は沖縄のことについて友達と話した)
(4) She couldn’t ( ) well because she was so shocked.(彼女は大変ショックを受けたので、うまく話すことができなかった。)
DONGRIでは、単語を入れるボックスの隣に、検索モードを選ぶメニューがあります。通常は「で始まることば」になっていますが、今回は「例文を調べる」を選んでみましょう。
画像はWeb版DONGRIを使用しています。
「例文を調べる」というモードは、入れた単語が使われている例文を辞書全体から探すことができる、電子辞書ならではの検索方法です。辞書の引き方を根本から変えたといってもよい機能であり、私が高校生だったときにこういう電子辞書があればもっと英語学習がはかどったのに、と今でも思います。
たとえば、「宿題」について英語で表現したいときは、紙の辞書しかなかった頃は、英和辞典でhomeworkを引き、その中に出ている例文を参考にするのが一般的でした。たとえば、ジーニアス英和辞典でhomework(宿題)を引くと、次のように8つの例文が出ています。
「宿題をする」「宿題を終える」「宿題を手伝う」など、基本的な内容はカバーしていますが、「私の先生はたくさんの宿題を出す」と言いたい場合、homeworkを引いても出ていません。
このようなときは、「例文を調べる」というモードでhomeworkを引いてみましょう。homework以外の見出し語からもhomeworkが使われている例文を探し出すので、62件もの例文が出てきました。
この中には、give homework to all the students(生徒全員に宿題を出す)という例文も出てきますので、これを使い、My teacher gives a lot of homework. のように言えそうだということが分かると思います。「宿題を出す」は「宿題を与える」と考えてgiveを使えばいいのですね。
このように、「例文を調べる」というモードでは、紙の辞書では不可能な「例文の宝探し」ができます。辞書という森の中に埋もれている何万という例文の中から、入力したキーワードが含まれる例文だけを探し出してくれるのですから、使いこなすと英語の力を飛躍的につけることができます。
では、前回の穴埋め問題に「例文を調べる」モードで再挑戦してみましょう。選択肢はsay, speak, talk, tellの4語で、そのうち3つは過去形が入ることは前回お話ししたとおりですので、それぞれの過去形を「例文を調べる」モードで検索してみましょう。このような基本的な動詞は、動詞だけを入れると何百という例文がヒットしてしまうので、複数の語を入れると検索結果が絞り込め、見やすくなります。
たとえば、said(sayの過去形)の場合はsaidのみ入れると306件もヒットしてしまいますが、she saidのように主語をつけると57件になります。
もちろん、主語はsheでなくても(heやIなどでも)かまいません。なお、DONGRIでは、大文字と小文字の区別はありませんので、she、 She、 SHEなどはすべて同じ結果になります。また、入力する単語の順序も問いませんので、she said / said sheのどちらを入れても「sheとsaidの両方が使われている例文」がすべてヒットします。
まずsaidを調べてみましょう。「例文を調べる」モードでshe saidと入れると、
“I’m scared,” she said, her hands clasped tightly together.
“I’m going now,” she said, fastening her coat.
のように、相手の言ったことを” ”で囲ってそのまま引用する(直接話法と言いましたね)例文が多いことが分かります。(2)のように引用文とともに使われる場合はsaidが適切であることがここからも明らかですね。
同様に、she toldと入れてみましょう。
She told us the incredible story of her 134 days lost in the desert.
She told me all her secret hopes and fears.
のように、toldの直後に「人」を表す代名詞を伴う文が多く見られます。このことからも、toldは、(1)の問題文のように、目的語には「人」を表す語がくる、という、前回お話ししたことが例文でもはっきりと現れていることが分かりますね。
次にtalkとspeakを見てみましょう。she talked, she spokeで検索すると、talked about, talked / spoke to, talked / spoke with のように、to, about, withといった前置詞とともに使う例が多いので、主に自動詞で使われるということが分かります。
最後に、talk, speakの区別を見てみましょう。she talked / she spokeでそれぞれ検索して出てくる例文を比較してもはっきりした特徴が見えにくいので、talked about / spoke about のように、aboutをつけて検索してみましょう。
これだと、talkはtalk aboutのように、speakとくらべてaboutとともに使われやすいということや、単に「ことばを発する」のでなく、何らかの話題について「話す」という例文が多いことが分かるので、(3)にtalkが入ることがわかると思います。
多くの皆さんは、英単語を学ぶときは辞書を引いて品詞や意味を知り、次にその語が使われている例文を見て理解を深めてきたと思います。すなわち、「単語の規則などを知る」→「例文で確認する」という順序で英語を学んできました(専門的には、「演繹的な学習法」と言います)。
一方、今回ご紹介したDONGRIの「例文を調べる」モードでは、辞書に出ている例文を「宝探し」でたくさん見つけ、次に、それらの例文を見ながらこの単語は自動詞か他動詞か、どういう前置詞と一緒に使われるのか、を考えるという「例文を見る」→「単語の規則などを推測する」という、多少時間はかかりますが、今までとは逆のプロセスで英語を学ぶことができます。これは、「帰納的な学習法」とよばれ、実用的な英語を学ぶ際によく使われる方法です。
もっとも、「例文を調べる」モードが万能というわけではありません。たとえば、talked aboutで検索しても「~について話す」という意味ではなく、偶然talkedとaboutが使われているだけの例文も拾ってしまいますので、ヒット件数の数字でだけで判断するのではなく、1つ1つの例文をしっかり読む必要があることは言うまでもありません。また、(4)のように、似たような例文がヒットしないこともありますので、例文だけでよく分からない場合は、前回お話ししたような方法と併用する必要があります。
単語の意味を調べるだけなら、無料のオンライン辞書アプリでもできるかもしれませんが、このように信頼のおける辞書の例文を縦横無尽に探し出すことはDONGRIをはじめとした辞書アプリでしかできません。次回でも紹介しますが、紙の辞書や無料のアプリでは真似できないDONGRIならではの機能を使いこなしてみましょう。
アプリのバージョンによって、「例文を調べる」の表記が異なる場合があります。
中部大学 准教授
関山健治先生
沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。
著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007年、小学館)、『英語のしくみ』(2009年、白水社)、『日本語から考える!英語の表現』(共著、2011年、白水社)、『英語辞書マイスターへの道』(2017年、ひつじ書房)などがある。
執筆・校閲者として『ウィズダム英和辞典(第3版)』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典(第5版)』(小学館)、編集委員として『ベーシックジーニアス英和辞典(第2版)』などを担当。