中部大学 准教授
関山健治先生
沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。
【辞書コラム⑯】辞書の使い方
#中級#形容詞・副詞
今回は、前回に引き続き「宿題」の続きを見ていきます。次の4つの文の中で使われているhard、 hardlyの品詞を考えてみましょう。
(2a)He studies English hard.
(2b) He hardly studies English.
(3) It is hard for me to study English without a dictionary.
(4) She is a hard worker.
hardという語は、英語学習者にとってまさに「ハード」な語です。形容詞と副詞が同じ形であることに加え、とくに形容詞は、ジーニアス英和辞典では26もの語義に分かれています。皆さんの中には、こんなにたくさんの意味を覚えないといけないのかと思う人がいるかもしれませんが、ジーニアス英和辞典やウィズダム英和辞典は、高校生から一般社会人まで使える上級レベルの辞書なので、大学受験のレベルを超える意味も多く収録されています。
このようにたくさんの意味を持つ語(多義語)の多くには、冒頭に「語義インデックス」がついていて、その単語が持つ意味をざっと見渡すことができます。高校の教科書や入試問題に出てくる意味の多くは語義インデックスにでていますので、まずこれを見て、引いた単語の意味を大まかに予想するようにしましょう。
さらに、ジーニアス英和辞典では、たくさんの意味の元になっている意味(いわゆる「意味の根っこ」で、語源的な意味と言います)を「原義」として載せています。
hardの場合、「強い」が根本的な意味であることが分かります。これをもとに、語義インデックスに出ている意味を順に見ていきましょう。
たとえば、「かたい」は、「簡単に折れたり、割れたりしない」→「強い」と考えられますし、「難しい」は「簡単に問題などが解けたり、楽にこなせたりしない」→「手強い(てごわい)」→「強い」につながります。「熱心な」は「(やる気が)強い」ということですね。
では、それぞれの文を見ていきます。まず、2a、 3、 4のhardについて見ていきましょう。
(2a)He studies English hard.
2aのhardは、動詞のstudyを修飾し、「どのように英語を勉強するか」を示しています。動詞を修飾していますから、ここでは「熱心に」という意味の副詞になります。
(3) It is hard for me to study English without a dictionary.
3は、be動詞のisの後にhardがあり、itという代名詞を修飾し、「辞書なしで英語を勉強することは難しい」という意味になっていますので、hardは形容詞になります。
なお、ジーニアス英和辞典では、hard(形容詞)の2番目の語義に、「[it is ~(for O) to do] (O〈人〉が)…するのは難しい」と出ています。「~」の部分には見出し語であるhardが入ります。また、「for O」の部分は「人」を表す目的語(名詞)、to doの部分にはto+動詞の原形が入りますので、3の英文のIt is hard for me to study English…とぴったり一致します。
このように、文型表記を見ると、ある単語がどのような形で使われるとどういう日本語訳になるかが分かりますので、英語を理解する際の強い味方になってくれます。
次に4を見てみましょう。
(4) She is a hard worker.
4では、hard workerのように、workerという名詞の前にhardがありますので、workerを修飾する形容詞となります。ジーニアス英和辞典で形容詞のhardを引くと、4番目に「熱心な、勤勉な」という意味が出ていますね。
ここで気をつけたいのは、workerの意味です。workerは「仕事をする人」=「労働者」と思い、「彼女は熱心な労働者だ」という意味だと考えた人もいるかもしれません。これでも間違いではありませんが、辞書でworkerを引いてみましょう。
ジーニアス英和辞典でworkerを引くと、「[形容詞を伴って]…な仕事[勉強]をする人、 仕事[勉強]をするのが…な人」と出ています。ポイントは「形容詞を伴って」というところです。4では、workerの前にhardという形容詞があります。そのため、4の文は「彼女は熱心に仕事(勉強)をする」のようにすると自然な日本文になります。
最後に、hardlyを使った2bの文について考えてみます。
(2b) He hardly studies English.
多くの形容詞は、kind(親切な)-kindly(親切に)のように、形容詞に-lyをつけると、同じ意味の副詞として使うことができます。そのため、皆さんの中にはhardlyをhardの副詞と考え、2aのように「彼は熱心に英語を勉強する」と考えた人がいるかもしれません。
hardlyを辞書で引いてみましょう。
たしかに、hardlyは副詞ですが、「熱心に」という意味ではなく、「ほとんど…ない」という全く別の意味を表します。そのため、2bは「彼はほとんど英語を勉強しない」という意味になります。辞書では「準否定語」と書かれていますが、これは、hardlyは、notのような否定を表す語を使わないで否定の意味を表す語であるということを示しています。日本語の「勉強しない」に引きずられて、He doesn’t hardly study English.のようにしないよう注意しましょう。
何回かに分けて形容詞と副詞の違いを考えてきましたが、品詞を区別すること、中でも形容詞と副詞を正しく区別することは大学生でも難しく、英語初心者を卒業する際に最も重要な文法事項の一つと言えます。今までにコラムでとりあげた内容をもう一度復習しておきましょう。
中部大学 准教授
関山健治先生
沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。
著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007年、小学館)、『英語のしくみ』(2009年、白水社)、『日本語から考える!英語の表現』(共著、2011年、白水社)、『英語辞書マイスターへの道』(2017年、ひつじ書房)などがある。
執筆・校閲者として『ウィズダム英和辞典(第3版)』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典(第5版)』(小学館)、編集委員として『ベーシックジーニアス英和辞典(第2版)』などを担当。