中部大学 准教授
関山健治先生
沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。
【辞書コラム⑭】辞書の使い方
#初級#形容詞・副詞
今回は、品詞別の辞書の引き方の最終回として、副詞について考えてみましょう。
副詞というと「副(そ)えるもの」といった脇役的なイメージを持ってしまいがちですが、形容詞と並んで、英語を正しく読む際にはとても重要な役割の語です。多くの副詞は形容詞と似ていることもあり、英語を専門としている大学生でも形容詞と副詞の区別がつけられない人は珍しくありません。
辞書コラム3で学びましたが、形容詞は、「名詞を修飾(詳しく説明)する語」、副詞は、「動詞や形容詞など、名詞以外を修飾する語」でしたね。
まず、形容詞の使い方を復習してみましょう。辞書コラム12で学んだように、形容詞には「名詞の前に置いて使う用法」(限定用法)と、「動詞の後に置いて使う用法」(叙述用法)がありました。コラムに出てきた用例で復習してみましょう。
(1) Shinkansen is a fast train.
(2) Shinkansen is fast.
(1)は「新幹線は速い電車です」という意味ですね。ここでは、fastは電車(train)という名詞を修飾し、「どういう電車か」を説明しています。ここでは、名詞を修飾しているので、fastは形容詞です。
(2)は「新幹線は速い」という意味ですが、Shinkansenという名詞を修飾していますので、(1)と同様にfastは形容詞です。
では、次の文はどうでしょうか。
(3) Shinkansen runs fast.(新幹線は速く走ります)
(1)、(2)と似たような文ですが、(3)では、fastはrunという動詞を修飾し、「新幹線がどのように走るのか」を説明しています。この場合のfastは、名詞以外を修飾しているので副詞になります。
皆さんの中には、「形容詞に-lyをつければ副詞になる」と教わった人がいるかもしれません。そのため、fast(形容詞)の副詞形はfastlyではないのか、と思った人もいるのではないでしょうか。
たしかに、形容詞に-lyをつけると副詞になる語もあります。fastの対義語であるslowもその例です。次の2つの文をくらべてみましょう。
(4) Tom is a slow speaker.(トムはゆっくり話す人です)
(5) Tom speaks slowly.(トムはゆっくり話します)
(4)の文では、slowはspeaker(話す人、話し手)という名詞を修飾していますので形容詞です。(5)のslowlyは、speakという動詞を修飾しているので副詞になりますね。
一方、英語では、fastのように形容詞と副詞が同じ語であるものもあります(現代英語では、fastlyという語はありません)。辞書で確認してみましょう。多くの英和辞典では、fastのように複数の品詞を持つ語では、素早く求める語義にたどり着けるようにメニュー形式で語義全体を要約しています。辞書の中には、このメニューの中から調べたい品詞や語義をクリックすると直接ジャンプできるものもあります。対応している辞書は、語義番号の近くにマウスのカーソルを動かすと指の形にカーソルが変わるので、そこでクリックすると直接ジャンプすることができます。
今お話ししたfastは、形容詞と副詞が同じ語で、意味も同じ場合の例でした。しかし、英単語の中には、同じ語なのに形容詞と副詞では意味が全く変わってしまう語もあります。このような語は、英語を読むときにも戸惑うことが多いので注意が必要です。次の例で考えてみましょう。それぞれの文で使われているprettyの品詞と意味を辞書で調べてみましょう。
(6) She has a really pretty voice.
(7) I thought this exam was pretty difficult.
prettyのように、複数の品詞がある語を辞書で引くときは、最初から順にすべてを見ていくのではなく、どの品詞で使われているかをあらかじめ考え、その品詞の部分だけを見ると速く引けます。
たとえば、(6)の文では、voice(声)という名詞の前にprettyがありますので、名詞を修飾している、すなわち形容詞であると考えられます。形容詞のprettyにはさまざまな意味が出ていますが、 ジーニアス英和辞典第5版では「<歌・声・名前などが>(耳に)快い」という語義の中に「a pretty voice(快い声)」というぴったりな用例が見つかります。
(7)はどうでしょうか? この場合、difficult(難しい)という形容詞を修飾していますので、prettyは副詞として使われています。副詞のprettyを辞書で引いてみましょう。
副詞のprettyは「かなり、相当に」という意味ですので、(7)の文は「この試験はかなり難しいと感じた」という意味になります。
このように、形容詞と副詞を区別することは、辞書コラム3でとりあげた名詞と形容詞の区別などにくらべて難しく感じるかもしれませんので、「宿題」として別の例で復習してみましょう。それぞれの太字の語は形容詞、副詞のどちらでしょうか? 辞書を引きながら考えてみましょう。
形容詞の場合は、辞書コラム12で学んだ内容を思い出し、限定用法、叙述用法のどちらで使われているかも答えてください。答えは次回のコラムでお知らせします。
(1a) The ceremony was held in honor of the late president.
(1b) She stayed late at work last night.
(1c) He never comes to school late.
(1d) Professor Smith is in his late fifties.
(2a) He studies English hard.
(2b) He hardly studies English.
(3) It is hard for me to study English without a dictionary.
(4) She is a hard worker.
中部大学 准教授
関山健治先生
沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。
著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007年、小学館)、『英語のしくみ』(2009年、白水社)、『日本語から考える!英語の表現』(共著、2011年、白水社)、『英語辞書マイスターへの道』(2017年、ひつじ書房)などがある。
執筆・校閲者として『ウィズダム英和辞典(第3版)』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典(第5版)』(小学館)、編集委員として『ベーシックジーニアス英和辞典(第2版)』などを担当。