【辞書コラム⑫】辞書の使い方

形容詞を引いてみよう② 形容詞の2つの使い方を理解しよう

#中級#形容詞・副詞

今回は、形容詞についての応用編です。形容詞の2つの使い方について、辞書を引きながら考えてみましょう。

形容詞の2つの使い方

次のそれぞれの文で使われている、fastという形容詞の意味を考えてみましょう。

(1) Shinkansen is a fast train.

(2) Shinkansen is fast.

第3回目のコラムでも少しふれましたが、形容詞は名詞を修飾(詳しく説明)する語です。

たとえば、(1)の場合、trainという「名詞の前」にfastを置くことで、trainに情報をつけ足してより詳しく説明する働きがあり、様々なtrain(電車)の中でも新幹線はfast train(速い電車)であることを詳しく述べています。このように、(1)のような使い方では、様々な種類の電車の中から「どんな電車か」を絞りこんでいるので、「限定用法」と呼ぶこともあります。

一方、(2)では、「be動詞の後」にfastを置き、主語であるShinkansenがどんな電車であるかを述べる働きをしています。このような使い方は「叙述用法」と呼ばれます。

多くの形容詞は、fast trainのようにtrainという名詞の前に置くこと(限定用法)も、Shinkansen is fast.のようにbe動詞をはじめとした、動詞の後に置くこと(叙述用法)もできます。日本語でも「新幹線は速い電車だ」「新幹線は速い」のように2通りの言い方がありますね。

辞書でfastを引き、形容詞のところを見てみましょう。fastのように、限定用法と叙述用法のどちらでも使える形容詞は、とくに注意書きはありません。




名詞の前に置いて使う形容詞(限定用法)

しかし、形容詞の中には、どちらか一つの用法でしか使えないものもあります。次の2つの文のうち、正しいものはどちらでしょうか。

(3) This is an wooden desk.

(4) This desk is wooden.

日本語では「これは木製の机です」「この机は木製です」のどちらでも言えますが、英語のwoodenは限定用法のみ、つまり、名詞の前で使います。そのため、(3)のように使うことが一般的です。

辞書でwoodenを引いてみましょう。

『ジーニアス英和辞典』では、語義の前に[通例限定]という注記が載っています。これは、通常は限定用法(名詞の前に置く)のみで使う、という意味です。

このように、限定用法のみで使われる形容詞は、ほかにもmonthly,  urban, mainなどがあります。それぞれの語を辞書で引き、注記を確認しましょう。なお、『ベーシックジーニアス英和辞典』、『ウィズダム英和辞典』など、辞書によっては「[名]の前で」と書かれているものもあります。





皆さんの中には「通例」という語が気になった人もいるかもしれません。

英語に限りませんが、言語の使い方は、数学の定理などと違い絶対的なものではなく、地域や個人によっても揺れがあります。そのため、最近の辞書では「白か黒か」に厳密に分けるのではなく、「通例」「しばしば」のような語(専門的にはヘッジと言います)をつけることで、「灰色」の場合もありうるということを暗に伝えています。実際に使われている英語の状況を調べてみても、叙述用法で使われている例も(数は少ないですが)出てきますので、100%間違いとは言い切れません。ことばをどう使うかは、最終的には話者が判断することであり、辞書がその使い方を法律のように縛ってしまうことは望ましいことではない、というのが最近の多くの辞書のスタンスです。

もっとも、英語を教える先生方や、とくに大学受験をめざす生徒の皆さんにとっては、辞書を六法のようにとらえて、白黒をはっきりしてほしい、と思うかもしれません。このように、ヘッジがついている語の場合、定期試験や資格試験、入試等の「試験」で出題された場合は、「多数派」の使い方をすることをおすすめします。たとえば、英作文などの試験の場合は、woodenは限定用法で使うほうが減点のリスクがなく、無難であるということです。

動詞の後に置いて使う形容詞(叙述用法)

話がそれましたが、別の例を見てみましょう。

(5) Look at the asleep baby.

(6) My baby is asleep.

日本語では「眠っている赤ちゃん」「私の赤ちゃんは眠っています」とどちらも言えますが、英語のasleepwoodenとは逆に叙述用法でしか使えません。そのため、(5)のように名詞の前に置くと不自然な文になります。このような場合、辞書には「叙述」「be~」「補語として」のような注記があります。







一般に、aで始まる形容詞は叙述用法のみで使われます。asleep以外にも、alone, alive, afraidなどが叙述用法しかない形容詞の例ですが、gladなど、aで始まる語以外でも叙述用法でしか使えない語があります。それぞれを辞書で確認してみましょう。

限定用法と叙述用法で意味が違う場合

最後に、限定用法と叙述用法の両方で使われるのに、それぞれの意味が違う場合を考えてみましょう。入試や資格試験の文法問題でよく出題されますし、実際に英語を使う場合にも別の意味に解釈されたりするので注意が必要な単語です。

たとえば、present(「贈りもの」という名詞ではなく、形容詞のpresentです)を引いてみましょう。





用例にもありますが、at the present timeのように、timeという名詞の前で使われている(限定用法の)場合は、現在の時間=「現時点で」という意味になります。一方、叙述用法で使われている場合は「出席している」という全く別の意味になってしまいます。

以前に、学生の書いた英作文の中で、「昨日は出席者が少なかった」という意味でThere were few present members yesterday.としたものがありました。翻訳サイトが出した英訳をそのまま使ったそうですが、辞書を引けば適切な英語で表現できるような易しい英文でも、現時点での機械翻訳では平気で間違えてしまうケースも多々あります。

ほかにも、certainlittleなど、数はそれほど多くありませんが、限定用法と叙述用法を混同してしまうと全く意味が変わってしまう形容詞がありますので、辞書で確認してみてください。

この記事の執筆者

関山健治(せきやま けんじ)先生写真

中部大学 准教授

関山健治先生

沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007年、小学館)、『英語のしくみ』(2009年、白水社)、『日本語から考える!英語の表現』(共著、2011年、白水社)、『英語辞書マイスターへの道』(2017年、ひつじ書房)などがある。

執筆・校閲者として『ウィズダム英和辞典(第3版)』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典(第5版)』(小学館)、編集委員として『ベーシックジーニアス英和辞典(第2版)』などを担当。

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