【辞書コラム⑨】辞書の使い方

動詞を引いてみよう④ 文型表記を使って、入試問題にチャレンジ!

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動詞を引いてみよう④ 文型表記を使って、入試問題にチャレンジ!

3回にわたって、動詞の引き方を練習してきましたが、今回はまとめとして、今までに学んだ自動詞と他動詞の区別や文型表記の読み方を復習しながら、実際の大学入試問題に挑戦してみましょう。ここでは、2018年度の大学入試センター試験の文法四択問題の中から考えてみます。

昨年度から始まった大学入学共通テストの英語(リーディング)では、長文の読解問題が中心に出題されるようになり、今回例としてあげたような短文の穴埋め問題は出題されなくなりました。もっとも、共通テストで文法を問う問題が出されないからといって、大学入試で文法の力が必要ないということではありません。単語力はもちろん、文法や語法の力をつけることは長文を正しく理解する上で大前提であり、その成果を実際の英文を素材にして測定するのが共通テストの目的と言えます。

高校12年生の皆さんは、入試問題などとても無理、と思うかもしれませんが、辞書を引きながら挑戦できますので、安心してください。では、実際の問題を見ていきましょう。

After I injured my elbow、 I had to quit (  ) for my school’s badminton team.

1.playing 2. to be playing 3. to have played 4. to play


この問題では、カッコの直前にあるquitの使い方がポイントです。『ジーニアス英和辞典』でquitを引くと、次のように出ています。

前回とりあげたenjoyと同じく、quitにも[SV doing]という文型表記が出ています。そのため、quitの後は動詞の-ing形(動名詞)をとることが分かります。選択肢を見ると、playという動詞の-ing形であるplaying1番にありますので、選択肢1が正解となります。

センター試験や大学入学共通テストは問題数が多いので、本番では問題文全体をゆっくり読む時間はほとんどありませんが、ここでは練習として、辞書を引きながら英文を読んでみましょう。高校1年生の皆さんにとっては、injuredinjureの過去形)やelbowが難しいと思います。辞書を引いてみましょう。

injureは、SVOという文型表記がありますので、injure+目的語(名詞)で「~を傷つける、痛めるという意味になります。用例を見ても、ねんざや打ち身というような軽いものではなく、通院や加療を伴うようなけがであることも分かりますね。「類語比較」をクリックすると、hurtwoundなど、injureと似た意味の語のニュアンスの違いが解説されています。センター試験や共通テストのレベルを超える内容ですが、英語を専門に学びたい人は参考になると思います。

elbowは「ひじ」の意味です。余裕がある人は「→body:図」というリンクをクリックすると、身体の部分にあたる単語が図とともに表示されますので、まとめて覚えておくといいでしょう。

ここまで辞書を引けば、(1)が「肘を痛めてしまった後、学校のバドミントンのチームでプレーすることをやめざるをえなかった」という意味であることは理解できると思います。

なお、injure elbowのいずれも、『ジーニアス英和辞典』の重要度ランクは「**」(高校レベル)となっていますので、大学受験までに覚えておきたい語であることが分かります。

このように、知らない単語の意味を調べるためだけに辞書を使うのではなく、文型表記や、すでに学んだ単語の重要度表記など、辞書の様々な情報を総動員することで、高校1年生の皆さんにはとても歯が立たないように思える大学入試問題を身近に感じることができるのではないでしょうか。

別の例を見てみましょう。

Rafael ( A ) a pair of swallows ( B ) a nest in the tree in front of the house.

1. A: looked B: making 2. A: looked B: to make
3. A: saw B: making 4. A: saw B: to make


ここでは空欄が2箇所ありますので、まず最初の空欄Aに入る単語を考えてみましょう。空欄の直後にa pair of swallows(ツバメのつがい)という目的語がありますので、Aには他動詞が入ることが分かります。

選択肢にあるlookedlookの過去形)とsawseeの過去形)はいずれも「見る」という意味ですが、それぞれを辞書で引いてみましょう。

なお、seelookといった基本的な語は、多くの辞書では重要な語義を最初にまとめて一覧表示しています。『ジーニアス英和辞典』では語義インデックスと呼ばれていますが、一目で単語の全体像を見渡すことができますので、効率よく辞書を引くことができます。



これを見ると、seeは自動詞と他動詞の両方で使われますが、lookは自動詞の意味しかありません。そのため、空欄Aには他動詞として使われるseeの過去形が入りますので、選択肢の中で34のどちらかであることが分かります。

次に、空欄Bについて考えてみます。seeを辞書で引き、他動詞の部分の文型表記を見てみましょう。

seeは様々な形で使われますが、ここではa pair of swallowsという目的語(O)の後に空欄Bがありますので、文型表記のSVOの後の部分に注意してみましょう。
選択肢の3making4to makeですが、文型表記を見ると、[SVO doing](=目的語の後に動詞のing形をとる)がありますが、[SVO to do](=目的語の後にto+動詞の原形をとる)という形は出ていません。そのため、

see a pair of swallows (making) a nest in the tree in front of the house.

のように、空欄Bにはmakingが入ることが分かります。

文全体では、

Rafael (saw) a pair of swallows (making) a nest in the tree in front of the house.

(ラファエルは、家の前の木にツバメのつがいが巣を作っているのを見た)


となりますので、選択肢3が正解となります。

このように、英語の入試問題の場合、大学入学共通テストや多くの私立大学入試のような、全問マークシート形式の入試問題であれば、高校1年生の皆さんでも、辞書を使いこなせば満点をとることも可能です。電卓を使っても歯が立たない数学や物理の問題とは違い、とくに英語が苦手な皆さんは、早くから辞書に慣れ、「辞書を使えば入試問題も解ける」という自信をつけていきましょう。

もちろん、実際の入試で辞書を使うことはできませんから、辞書に頼りすぎるのは考えものです。大学入試や資格試験を意識した学習をするときは、今までに身につけた単語力や文法の力を総動員して、何も見ないで制限時間内に素早く解答する力を身につける必要があることはいうまでもありません。その場合は、問題を解いてから、答え合わせをして一喜一憂するだけで終わらせず、じっくり時間をかけて辞書を引き、なぜこの問題を間違えたのかを辞書の記述を見ながらふり返ってみることが必要です。

皆さんの中には、学年が進むにつれて辞書と疎遠になってしまう人もいますが、試験本番で辞書が使えない分、日常学習や試験準備の際に辞書を人一倍引き、目標を達成できる力をつけることをおすすめします。

このコラムを読んでくださっている皆さんの中には、来年度の入試や資格試験に向けて英語学習を全力で始めている人も多いと思います。次回は特別編として、先日行われた大学入学共通テストの問題を分析し、どれぐらいの単語を知っていると試験問題が読みやすくなるかということを考えてみたいと思います。

この記事の執筆者

関山健治(せきやま けんじ)先生写真

中部大学 准教授

関山健治先生

沖縄大学専任講師、准教授を経て、2014年から中部大学准教授。専門は英語辞書学・応用言語学。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007年、小学館)、『英語のしくみ』(2009年、白水社)、『日本語から考える!英語の表現』(共著、2011年、白水社)、『英語辞書マイスターへの道』(2017年、ひつじ書房)などがある。

執筆・校閲者として『ウィズダム英和辞典(第3版)』(三省堂)、『プログレッシブ英和中辞典(第5版)』(小学館)、編集委員として『ベーシックジーニアス英和辞典(第2版)』などを担当。

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