ライティングを伸ばすために必要なこととは?

第3回:大学生の英語ライティング力

大学生の英語ライティング力の現状

大学生の英語力に関するコラムの第3回目として、今回は大学1年生を対象とした「ライティング力」に焦点を当てて掘り下げていきます。ライティング、すなわち英語の文章を書く能力は、コミュニケーションの一端を担う極めて重要な要素です。しかしながら、実際には多くの新入生が、英文でのライティングに自信を持っていないのが現状です。高校での英作文の経験や訓練は多少あるものの、残念ながら、大学において学びをスムーズに進めるための十分なライティング・スキルが備わっているとは言い難い状況です。今回のコラムでは、どのようなライティングの問題点が存在するのか、そして、それを改善するための方法や学びの方向性について考察していきたいと思います。高校の先生方や英語教育に関心を持つ皆様の参考となるよう、具体的な内容を共有していきます。

新入生における主なライティングの弱点

新入生たちにライティングを指導していると、3つの点が目立つ傾向にあります。まず、(1) 高校時代の受験対策の影響により、英文を作成する際、まず日本語で考え、それをそのまま英語に翻訳しようとする学生が多く見受けられます。これが原因となり、日本語の直訳のような不自然な英文が増え、英語の自然さが失われてしまうのです。次に、(2) 高校で英語の構文学習に重点を置くあまり、構文パターンや特定のテンプレートへの依存度が高くなっています。その結果、多くの学生が同じような文章を書き、個性あふれる文章ではなくなっています。そして最後に、(3) 高校のライティング教育では短い英作文を中心に指導しているため、長文や複雑な内容のライティングが不得手な学生が増えています。特に、文章全体の論理的な流れや構造を組み立てるスキルが不足しており、読者に伝わりにくい英文が書かれることが多いのです。以下では、これらの問題点を深堀りし、その原因を探っていきます。

日本語をそのまま英語に直訳

新入生たちが書く英文において、顕著な問題点として「日本語をそのまま英語に直訳する」傾向が挙げられます。この背景には、大学入試などを意識した試験対策が大きく関与していると思われます。高校で指導するライティングや大学入試問題では、日本語を英語に翻訳する形式が主流であり、これがその後の英語ライティングにも影響を与えていると推察できます。

例えば、「私はドラマを見ようと思っている。」という文を、「I have an intention to watch a drama.」 と直訳してしまうケースが見られます。より自然な英語としては「I’m planning to watch a drama.」という表現を使うべきです。また、「気を使ってくれてありがとう。」という表現を「Thank you for using your spirit for me.」と訳してしまうこともあります。これも正しくは「Thank you for being so kind.」にすべきでしょう。もう一つ実例を挙げるとすれば、「彼は頭がいい。」という表現を「His head is good.」と直訳する学生もいます。正確には「He is smart.」と表現すべきだと言えます。

これらの例からも分かるように、日本語の直訳は英語の表現と合致しないことが多く、結果として英語として不自然な文になってしまいます。これは、英語を学ぶ目的が自分の意志を正しく伝えることであるとすると、大きな障壁となります。不自然な英文を書くことを止めなければ、自分の意図が相手に伝わらず、自然な英語表現も習得できなくなってしまいます。英語は、日本語とは異なる文化や背景を持つ言語であり、高校生のときから単に日本語を英語に直訳しただけでは、自分の意図が相手には正確に伝わらないことがあるということを意識して、英文法や英語らしい表現をしっかりと学び、自然な英語に親しんで正しい英語表現を学ぶことが必要と言えるでしょう。

英語構文パターンへの依存

次に、英語ライティングにおいて構文パターンや特定のテンプレートへの依存度が高いという問題があります。こちらも同様に、背景には高校での英語教育が大きく影響していると思われます。実際に、高校時代に大学の入試対策を行う中で、テストの短い制限時間内で正答率を上げるために、一定の構文やパターンを繰り返し学ぶことが奨励されています。

具体例を挙げると、多くの学生が文章を書く際に「It is important to 〜.」、「There are many people who 〜.」、「It is true that 〜.」といった構文を頻繁に使用する傾向があります。もちろん、これらの表現自体は英語として間違っているわけではありませんが、固定的な表現に偏ることで、他のさまざまな表現や個性が文章から失われてしまうのです。さらに、構文への依存度が高まることで文章全体が単調になり、読者の興味を引くことが難しくなるという問題も生じます。繰り返し同じ構文を使用してしまうと、文章自体の新鮮さや独自性が感じられなくなってしまいます。

この問題を解決するためには、高校のときから多くの良質な英文に触れ、インプットを多くすることが重要です。実際の英語の文章には、学校で学んだ構文以上の豊富な表現が存在するのです。高校での構文学習も必要だとは言えますが、そこには問題点も存在するということを認識し、生徒たちが独自の表現力を身につけ、より豊かな英語表現ができるように高校で指導していただければと思います。

文章構造の理解の欠如

最後に、英語の文章構造についての理解が欠如している点も、新入生の英文ライティングにおける大きな問題点となっています。高校時代の英語教育では、基本的な文法や単語の学習を中心に、比較的短い文章を書くことが主流です。このため、一つ一つの文を正確に書くスキルは身につけられても、全体としての文章構造や論理的な流れを意識したライティング・スキルにはならないのです。

具体的な例を挙げると、英語ライティングにおける基本的概念である「Paragraph」そのものについて十分に理解していない学生が多く、その詳細な知識に関しても欠如している場合があります。Paragraphとは特定のトピックやアイディアを表現するための文章のまとまりであり、「Topic Sentence (主題文)」、「Supporting Sentences (補足文)」、「Concluding Sentence (結論文)」という3つの主要な部分で構成されているのですが、この英語の文章構成についてあいまいな学生が多いのです。また、Paragraph間の適切なつながりが不足している文章を書く学生も散見されます。1つのParagraphが終わった後、次のParagraphが前の内容とどのように関連しているのか、またはそれに続く内容とどのようにつながるのかなどを意識せずに英語の文章を書いてしまい、読者にとって不明瞭な英文を書いてしまう学生が多いのです。

この問題は、高校でのライティング教育が短文中心であるため、長文や複雑な内容を英語で表現するスキルが不足していることが大きな原因であると考えられます。もちろん、英語の文章構造については高校の教科書には記載されており、授業でも扱っているとは思いますが、多くの学生がその知識の定着が十分になされないまま大学に入学しているように見受けられます。大学に入学後、英語の文章構成について、すでに学習した内容を再度学習させなくてはならないのは良い状況とは言えません。生徒たちに高校での英語学習が大学での基盤となることを意識させ、高校でのライティングの授業や指導を通じて、文章全体の構造や論理的な流れを意識した書き方を学ぶ時間を十分にとっていただくことが望ましいでしょう。

まとめ

第3回目のコラムでは、大学1年生の英語のライティング力に焦点を当て、その現状、問題点、そして原因となる背景を詳しく見てきました。(1) 日本語の直訳に起因する英文の不自然さ、(2) 高校教育における英語構文パターンへの過度な依存、そして、(3) 文章構造の理解の欠如といった3つの主要な問題点は、大学での高度な英語習得を阻害する可能性があり、早急な対策が求められます。

これらの問題を解決するためには、高校での英語教育の見直しや、より実践的なライティングの指導が必要となります。具体的には、日本語の直訳からの脱却、多様な英語表現の習得、そして文章の論理的な構成を意識した十分な指導が必要でしょう。これらの点をしっかりと高校生に学ばせることで、学生たちの大学での英語の学びをよりスムーズに、より効果的に進めることができるといえます。今回取り上げたライティングの問題点は、英語学習の核心に関わるものですので、高校の先生方には是非とも、十分な時間を割いてご指導いただきたいと考えています。

この記事の執筆者

萓忠義(かや ただよし)先生写真

萓 忠義先生

(かや ただよし)

学習院女子大学 教授。学習院女子大学 語学教育センター長。応用言語学博士(Ph.D. in Applied Linguistics)。

上智大学外国語学部英語学科卒業後、同大学院を経て、米国北アリゾナ大学にて博士号を取得。東京大学、早稲田大学、立教大学、上智大学、国際基督教大学などでの英語教授経験もあり、応用言語学に関する知識を活かし、効率的な英語学習法を提唱している。国内外で英語教育に関する研究発表や執筆活動も多く、学研教育出版、桐原書店、くもん出版などから英語4技能に関する著書も出版している。

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